コロナウィルスで2021年に開催予定だったライアン・ガンダー/Ryan Ganderの個展「われらの時代/THE MARKERS OF OUR TIME」が初台の東京オペラシティアートギャラリーでようやく開催されました。
満を持して開催されたライアン・ガンダーの展覧会を観に行く前に絶対知っておいた方がいい情報をお届けします。
さらに、別のギャラリーで開催されているもう一つのライアン・ガンダー展の情報も追記しました。
PR1年延期
東京オペラシティでのライアン・ガンダー展は、当初2021年の予定でしたが、コロナ禍による影響で延期されていました。
しかし、2021年にその個展の代わりとしてライアン・ガンダーらしい絶妙な手法でアートギャラリーの寺田コレクションをキュレーションする企画展を開催しました。
それは、パンデミックにより来日できないという状況でも、発想の転換によって展覧会を開催するというライアン・ガンダーのポリシーが発揮された他に類を見ない展覧会でした。
今回の展覧会でも、なんと!昨年のその企画展を再度鑑賞することができます。
オペラシティアートギャラリーの展示室全てでライアン・ガンダーの世界にどっぷり浸かれるとっても楽しい展覧会です。
ネズミは9分間に渡り独白をしています。声はライアンの9歳の娘。独白の内容の和訳はQRコードで観られます。▲
展覧会構成
展覧会は、空間全体で一つの作品となっています。ですから、オペラシティアートギャラリーに足を踏み入れたその瞬間から展覧会は始まっています。
チケットカウンターの前からロッカーまで床には何やら黒いものが。
それはロッカー内や会場の中まで続きます。▲これは「野望をもってしても埋められない詩に足りないもの」
この作品は、展覧会を開催する国の通貨やクレジットカード、IDカード、キーカード、航空券などのシルエットを模った作品です。開催される場所によって変幻自在に変化する作品ということです。
また、このロッカーの中にも作品がありますので、床だけ見て安心しないでください!
このように展覧会は、通常の展示室の3階ギャラリー1、ギャラリー2とコリドールはもちろんのこと、チケットカウンター周りやエントランスホール、ロッカーなどまさに会場全体が一つのインスタレーション作品です。
ほぼ全ての作品を網羅した展覧会の様子は動画を参照ください。▼
上記動画に出てこない作品が2点あります。
もう見られない作品
実は、残念なことに1点だけ、もう見ることができない作品があります。(You Tubeに出てこない作品1です。)
その作品は、この展示室にクレジットされています。▲
作品「時間にともなう問題」2022年 男女二組の一卵性双生児は、展覧会のレセプション時だけで普段はもうありません(いません)
この二組の一卵性双生児というのは、このブログでも紹介した恵比寿のMA2Galleryで「Going down the rabbit hole」展を開催して話題となった髙田安規子・政子姉妹とビール作りなどさまざまな活動をしているラッパーの上鈴木兄弟です。
フランク・ロイド・ライトと遠藤新デザインの自由学園明日館の椅子にも作品が!▲
この二組の一卵性双生児がレセプションではこの会場内でパフォーマンスを行ったようです。▲観たかった!
その時の様子は髙田姉妹のInstagramでちょっとだけ観られますよ!
PR見落としがちな作品4つ
次は、見落としがちな作品を4つ紹介します。
ギャラリー1で見落としがちな作品は2点です。
額装の上の細い葉巻の吸い殻を模した純銀の立体です。▲この作品は、TARO NASUで8/6まで開催されている「Killing Time」でも観られます。
ギャラリー1展示室奥右上の天井を見ると黒い風船が浮かんでいます。▲浮かんでいるように見えますが、実はこれファイバーグラス製です。
隣のギャラリー2にはコインやマッチ箱、瀕死の蚊、横たわるネズミやしゃべるネズミなど小さい作品がいくつかありますが、これらは見落とすことはないと思います。では何に注意すべきかというと。
ギャラリー2で見落としがちな作品は1点です。
額装作品の壁面にある額の上にライアン自身が捨てたガムを模った人造大理石があります。▲小柄な方はちょっと見えにくいかも。
そして、最後はチケットカウンター内にある輪ゴムの作品です。▲輪ゴムの形をしていますがなんと素材はブロンズです。入ってきた時には全く気づきませんでしたが、こんなところにも作品が!
ガムを模した人造大理石が置かれているのは16枚の連作「すべてのその前:画家のツールによる学術界への一刺し」は、20世紀イタリアを代表する作家イタロ・カルヴィーノの「冬の夜ひとりの旅人が」が印刷された作品です。メタ小説のようですが、ちゃんと日本で翻訳が出ています。中身を読んでみたい方はどうぞ。
¥1,980 ¥1,800 (2024-12-08 02:23 GMT +09:00 時点 - 詳細はこちら価格および発送可能時期は表示された日付/時刻の時点のものであり、変更される場合があります。本商品の購入においては、購入の時点で当該の Amazon サイトに表示されている価格および発送可能時期の情報が適用されます。)
ガン見しにくい作品
これは、作品はちゃんとあるのですが、とてもガン見しづらい作品です。どういうことかと言うと
ギャラリー2の額装作品が並ぶ壁面の隣に立っている監視員さんの首にかかっている作品「首にかけた重石(時間を無駄にしなかった証拠)」です。
右に立っている監視員さんです。▲ここの監視員さんは作品を首にかけているだけでなく、もう一つ重要な役割を担っていますので、是非会場に行って確かめてみましょう。!
そして、この作品が↑You Tube動画に出てこない作品の2つ目です。
ちょっとじっくり近づいてガン見するのは憚られますが、ぜひ、見逃さないようにしてください。
スノードームの中はなんと!
展示室後半にあるスノードームの作品「雪のやまないスノーグローブ(前頭前野をオンラインに保つための試み)」は、常にスノードーム中の雪が舞っていて中に何があるのかが判然としません。
作品リストにも「見えないなにか」と表記されています。
しかし!これがなにかわかりました。正解は▼
マルセル・ブロイヤーのワシリーチェアのミニチュアが横になっているのです!
富山県立美術館に訪問した際に撮った椅子コレクションのワシリーチェアの写真を横向きにしてみました。
どうですか、シルエットが同じですよね?
こちら2017年に国立近代美術館で開催されたマルセル・ブロイヤー展の撮影スポットにあったワシリーチェアです。
建築・インテリア好きの方は訪問して同じ写真を撮っているのではないでしょうか?
この椅子のミニチュアがスノードームの中には横になって入っているのでよーくみてください。
PRもしかして椅子好き?
前述しましたが、フランク・ロイド・ライトが設計した目白にある自由学園明日館にある六角椅子も重要な作品の一部として2つの作品に1脚づつ計2脚登場します。
作品リストには「ライトと遠藤新デザインの椅子」と書いてありますが、実はこの六角椅子、フランク・ロイド・ライトがデザインしたのか遠藤新がデザインしたのかわかっていません。▲
ホールに置かれたこの椅子は、旧帝国ホテルで使用されていたピーコックチェアにも似た、六角形の背に水平のスリットが特徴的です。ライトもしくは遠藤がデザインしたと考えられます。(引用元:重要文化財自由学園明日館公式HPより)
自由学園明日館の窓の意匠がライトらしい大きな窓が印象的なホールに並ぶ六角椅子▲
マルセル・ブロイヤーのワシリーチェアといい、自由学園明日館の六角椅子といいライアン・ガンダーが作品に取り入れるものには心をくすぐられます。
椅子ではないですが、髙田姉妹の登場も揺さぶられました!もう、ライアン大好き!
持ち帰られる作品
今回の展覧会では、いくつか持ち帰ることができるものがあります。
左から、地球上のどこかの地点の緯度経度が書かれたチケット
中央 アート&デザインのAレベルの試験用紙(QRコードを読み取ると和訳が読めます)
右 ライアン・ガンダーが手書きで書いた手紙(コピー)
これら、特にライアンからの手紙は是非持ち帰りましょう!
このライアンからの手紙、会期終盤の週末はもらうのに行列とかできそうな予感がします。
PRリーフレット
ここまで読むと、難易度高くて全部見つけられなかったらどうしよう!と思うかもしれません。安心してください。
この展覧会にはキャプションがないため、リーフレットが用意してあります。これを読みながら鑑賞すれば大丈夫です。実際にいない二組の一卵性双生児までちゃんと載っています。
展覧会のリーフレットと持ち帰ってきた「若き作家への手紙」▲
映像作品と鑑賞時間の目安
展覧会には、2つの映像作品があります。一つはコリドールにあるモニターで流れている作品で1:08です。あっという間なので問題ありません。
もう一つが4階への階段前にあるモニターで流されている「時間の問題にすぎない」これは59:11です。▲
この映像作品が約1時間ありますから、これを全部鑑賞を前提にすると2時間はかかると思って訪問した方がいいですね。4階にもライアン・ガンダーの展示がありますし。
撮影について
写真撮影は可能ですが、動画はNGです。ネズミの作品など動きのある作品は、動画を撮りたくなってしまいますが、撮影禁止なので注意してください。
ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展
通常は寺田コレクションを展示している4階の展示室にもライアン・ガンダーです。
昨年、パンデミックで来日不可能で個展開催延期となったライアンから「収蔵品展のキュレーションはイギリスからでもできるのでは」という申し出があり実現した展覧会です。
昨年の展覧会は3階、4階それぞれにテーマを設け、「色を想像する」、「ストーリーはいつも不完全……」という二つの企画でした。
今回のライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展では「色を想像する」が再び観られます▲
作品の外枠だけ描かれた壁のキャプションを読んで色を想像すると、、、
実際は全て白黒の作品です。▲ 全て白黒にしたのは、ライアンから寺田コレクションの寺田小太郎氏に捧げるオマージュです。
その件ついては、ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展のリーフレットにライアンの言葉が書かれているので是非読んでください。とても良いメッセージです。
オペラシティアートギャラリーには幾度となく訪問し、寺田コレクションも何度も鑑賞しているので、観たことのある作品もあるのですが、とっても新鮮でした。
パンデミックでの苦境を逆手に取ったライアンらしい見事な展覧会です。
リニューアルしたミュージアムショップ
東京オペラシティアートギャラリーのミュージアムショップがリニューアルしました。
ギャラリー内に4つのギャラリー(展示室)を持つアートギャラリーの5つ目のギャラリーというコンセプトで付けられたGallery5のネーミングはそのままのリニューアルです。
ショップの設計は長坂常のスキーマ建築計画です。下のレールで什器が自由に動かせるようになっています。
また、これまでのショップは恵比寿のNaDiffが運営していましたが、今回のリニューアルから運営事業者も変わりました。
新しいショップは、恵比寿のアートブックショップ「POST」の中島佑介率いる株式会社limArt(リムアート)です。
空間も品揃えも新しくなって、とても新鮮でした。
この「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」、図録は8月17日刊行予定です。それまでに鑑賞してしまった方はAmazonで予約しておくのも良いでしょう。
コロナの感染状況が猛威をふるっている2022年の夏休み。涼しい美術館で現代美術の展覧会鑑賞はいかがでしょうか。
PR基本情報
ライアン・ガンダー われらの時代のサイン
Ryan Gander: THE MARKERS OF OUR TIME 2022年7月16日(土)─ 9月19日(祝) 11:00 ─ 19:00 月休(8/7休) 予約不要 一般1,400円、大高生1,000円、中学生以下無料 新宿区西新宿3丁目20−2 MAP アクセス:京王新線(都営新宿線乗入) 初台駅東口下車徒歩5分 |
初台の東京オペラシティ情報はこちら▼
オペラシティ近隣のホテル
一緒に見たいもう一つのライアン・ガンダー展
銀座の三愛ビルの8階にあるリコーアートギャラリーでもう一つのライアン・ガンダー展が8/2から開催されています。
ライアン・ガンダーは、東京オペラシティギャラリー、TARO NASU (2022.8/6まで) 、RICHO ART GALLERYの3箇所で展覧会を開催しています。
中央は”Doinʼ everythinʼ and feelinʼ nothinʼ / Double Damage” のシリーズ。▲
漫画のコマ割りのような構成▲
よく見ると立体的で不思議なマチエール▲
3ヶ所が同時に開催されたのは5日間だけですが、どの会場もライアン・ガンダーらしい作品を見ることができるので、できれば全部制覇しておきたい。
基本情報
Ryan Gander「Days of Temporal Passing」
2022年8月2日(火)- 12:00 – 19:00 日月祝、8/14-22休 入場無料 中央区銀座5丁目7−2 8階・9階 三愛ドリームセンター MAP アクセス:東京メトロ銀座線日比谷線丸の内線銀座駅A1出口徒歩30秒 |
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