生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展
日本映画の重要なジャンルである「特撮(特殊撮影)映画」。その美術監督の巨匠 井上泰幸(いのうえやすゆき)の生誕100年を記念する展覧会「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」が東京都現代美術館で始まりました。
円谷英二の下で「ゴジラ」に関わったのを皮切りに「空の大怪獣ラドン」、「妖星ゴラス」、「海底軍艦」、「サンダ対ガイラ」、「日本海大海戦」など多くの特撮映画で驚くほどリアルなミニチュアセットを作り込んだことで知られます。
また、映画に登場するメカのデザインなども手掛けていて、アメリカにレイ・ハリーハウゼンやダグラス・トランブルがいるなら日本には渡辺明や井上泰幸がいるぞというくらいの巨匠です。
映画監督だと定期的に回顧上映があったり特集上映があったりするのですが、こうした美術監督、それも特撮美術監督の業績をまとめた展覧会は画期的です。
映画ファン、特撮ファン、怪獣ファンなど多くの人が興味を抱くようなテーマだけに展覧会の開幕初日から多くのお客さんが詰めかけていました。
PR東京都現代美術館まで
東京都現代美術館に着くと、さっそく大きなポスターが出迎えてくれます。
本多猪四郎+円谷英二による「空の大怪獣ラドン」でラドンが福岡の岩田屋を襲うシーンを監督する井上泰幸の写真が使われています。
このシーンは展覧会でも再現されていて、岩田屋とラドンは実際に撮影することができます▼
東京都現代美術館の入り口に到着。
週末はチケット売り場に行列ができるので事前にオンラインで日時指定チケットを購入しておけば、チケット売り場に並ばずQRコードで入場することができて便利です▼
なお、2022年3月19日(土)から4月3日(日)は18歳以下は入場無料になります。
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撮影できるのは2ヶ所だけ
最近は写真撮影可能な展覧会も多くなってきましたが、今回の「井上泰幸展」は原則写真撮影禁止です。もちろん動画もNGです。
会場の構成、注意事項、展示内容をまとめたチラシが会場エントランス脇に置かれているので会場に着いたらまずそちらをご覧ください▼
撮影OKなのは2ヶ所。
奥の岩田屋とラドンのミニチュアセットと、エントランスを入ったところにあるこの展覧会のタイトルロゴです▼
案内チラシを読まずにいきなりエントランスで撮影を行い係員さんに注意される人が多かったようです。まずはエントランス脇の注意事項を読みましょう。
ただ地下2階のエスカレーターのところに展示されている「井上泰幸年譜」は展覧会とは別なので撮影OKです▼
1922年つまりソ連成立の年に生まれているんですね。
それにしても60年代の多忙ぶりはすごいです▼
会場は「特撮技術への道 – 井上泰幸・玲子の個人史料」、「円谷英二との仕事」、「特撮美術監督・井上泰幸」、「アルファ企画から未来へ (独立後)」、「井上作品を体感する」と大きく5つのセクションに別れています。
もちろん最後の岩田屋のミニチュアセット以外は撮影NGです。
また「アルファ企画から未来へ」のセクションから次に移動する際に現代美術館の内庭に沿った回廊を通るのですが、そこに「井上泰幸の言葉」という展示があります。ガラス窓に彼の言葉がいくつか書かれているのですが、見逃して通り過ぎる人が多いです。見落とさずしっかり彼の言葉を読んでおきたいです。なぜ彼の回顧展が開催されているのか、その理由が分かると思います。
とにかく作品も多いし史料も多くて読み込む時間もかかるので、普通の展覧会以上に時間がかかります。普通に2時間はかかると思いますが、それ以上の時間をかけて鑑賞している人も見かけました。
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岩田屋とラドンのミニチュアセット
展覧会の最後はお待ちかねの岩田屋とラドンのミニチュアセットです。
セットをバックにポーズを決める井上泰幸のパネル。ちなみに彼は戦争中にアメリカ軍機の機銃掃射を受け左足を失い義足なのでこんなポーズになっています。
また岩田屋の屋上に降り立とうとしているラドンは立体物じゃなくてペラペラの厚紙になっていました。実際の映画撮影では立体の着ぐるみ(?)ラドンが使われていたんですけどね。
ミニチュアセットの全体図です。
岩田屋周辺だけで天神エリア全体のミニチュアセットではないのですね。でも広いエリアを破壊したように撮影するのが特撮の技術なのでしょう。
手前にはモニターが置かれ、ミニチュアセットに配置された定点カメラや移動カメラの映像をリアルタイムに映していました。ただ左端のモニターはカメラが切り替わったりしていたので録画映像を流しているのかもしれません▼
セットの裏に回り込むと岩田屋の裏側は何も無い空洞、つまり張りぼてだということが分かります▼
なるほど、こうしてリアルに作り込む部分とそうでない部分とでメリハリを付けるのでしょう。スケジュールや予算なども頭に入れてのクリエイティビティ。プロですね。
意外と人気がなくて空いていたので、初日は好きなアングルから好きなように写真を撮れました。
周りに人が少ないので、せっかくのショットに他のお客さんが映り込むこともなかったです。
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ミニチュアセットの詳細
ということで好き勝手に撮ってみた井上泰幸風な岩田屋のリアルミニチュアセットの写真です。
岩田屋に隣接する西鉄の駅と電車▼
何事もなく駅から出発しようとする電車のその後ろの方にはなにやら怪しい黒い影が!
ラドンを入れると立体感がないのがモロバレなので、ちょっとだけ映り込むようにするのがいいみたいですね▼
逆に上からミニチュアセットを見ると、屋根なども手抜きなく作り込まれているのが分かります。もちろん井上泰幸が制作したものは60年以上前にラドンが壊しているので再制作したものです。
再制作は三池敏夫氏が監修しているので、間違いないですね。当時の井上組クオリティだと思います▼
福岡の岩田屋周辺の道路の様子。
ここら辺は井上泰幸自身が福岡に足を運び、実測してのロケハンをした成果だそうです▼
岩田屋のショーウィンドウなども再現。太平洋戦争の敗戦から僅か10年ですが、ここまでモダンに復興していたんですね。
でも復興した街並みが空襲のメタファーである怪獣によってまた破壊される。1950年代だからまだ記憶に新しい空襲やそれに伴う破壊や恐怖感を引き出して怖さ倍増していたと思うんですよね▼
それにしても電線や看板の作り込みも気合が入っています。ミニチュアセットだから壊されちゃう運命なんですけど▼
あとバックの青空ですけど、天井のライトが写り込んでしまう場所があります。特に壁と壁とコーナーの部分です。
そこが構図に入るとせっかくのリアリティが台無しになるので、コーナー部分が写らないような構図を探すのも結構大変でした。
PR岩田屋デパート
岩田屋デパート自体も凄いです。
1956年当時の岩田屋デパートだそうです。懐かしい人も多いのではないでしょうか▼
屋上には観覧車。当時のデパート屋上の定番です。そこまで作り込まれているのです。
本来は青空になるバックがライトでテカっているのが分かりますか? 構図が悪いとこうなっちゃうんです▼
「みんなで防犯 明るい街に」という標語の垂れ幕、写真展覧会の垂れ幕などリアリティのある細部です。また地上レベルのウィンドウ内にはマネキンが立っていたりして、とにかく細部までのこだわりがあります▼
こうした細部へのこだわりや全体の造形などいま逆にアートとして再評価されているのかもしれません。
スーパーリアルな造形作家であり、フューチャリスティックなデザイナーとして捉え直してもまったくおかしくないですもんね。
そんな井上泰幸の大回顧展ですから見逃す手はないと思います。
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撮影について
この展覧会の撮影は原則不可です。
会場エントランスのタイトルロゴと最後の岩田屋とラドンのミニチュアセットだけが撮影可能です。
チケット
美術館で当日券の購入も可能ですが、オンラインチケットを事前に購入しておけば、QRコードを提示していきなり展示室に入れるのでスムーズです。
エチケット
最後のミニチュアセットは撮影OKなので寝転がったり接写したりアクロバティックな姿勢で撮影することがあるかと思います。また混んで人も多いので、荷物はロッカーへ預けて身軽な格好で鑑賞するのをお勧めします。
参考資料
井上泰幸へのインタビューを含む書籍、特撮美術を担当した代表作などを紹介します(Amazonから購入できます)。
展覧会基本情報
会期 : 2022年3月19日(土) ~ 6月19日(日)
開館時間 : 10:00 ~ 18:00
休館日 : 月曜日(3月21日は開館)、3月22日
観覧料 : 一般1,700円 / 大学生・専門学校生・65歳以上1,200円 / 中高生600円 / 小学生以下無料
会場 : 東京都現代美術館 企画展示室 地下2F
住所 : 東京都江東区三好4丁目1−1 MAP
最寄り駅 : 地下鉄 清澄白河駅
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