突然ですが「沼津倶楽部」をご存知でしょうか。かくいう私もつい最近までその存在を知りませんでした。縁あって訪問してみたらなんとすごいこと!今までその存在を知らずにいた時間がもったいない!と思ってしまいました。そのくらい「沼津倶楽部」はすごいです。
そう、そこはまるで東洋のルイス・バラガンのようでした。
沼津倶楽部の一体何が、どう、すごいのか、どこがどう東洋のルイス・バラガンなのかを勝手に紐解いていきたいと思います。
PR沼津倶楽部の歴史
詳細については公式HPに書かれているので、このブログでは超絶簡単にまとめたいと思います。
沼津倶楽部というのは、ミツワ石鹸で財を成した三輪家の二代目社長三輪善兵衛が、「千人茶会」の開催を目的に別荘として建てた茶室だらけの数寄屋建築「松岩亭」が始まりです。
その敷地はなんと3000坪!建物は大工棟梁の柏木家十代目・柏木祐三郎を東京から呼び寄せて明治26年(1893年)につくらせたんだそう。
第二次世界大戦中は陸軍省の管轄、戦後は当時の沼津市長が建物を取得し、沼津の政治活動の拠点・接待割烹として利用されていました。
その後老朽化が激しくなり長らく放置されていたのを、栄光ゼミナールの創業者北山氏が、2008年に改修を行い、同じ敷地内に8室の宿泊棟を建て現在の「沼津倶楽部」の形が完成します。
北山氏による運営は2022年に終了し、現在は沼津倶楽部継承プロジェクトによってその意思が引き継がれています。
渡辺明設計の宿泊棟
沼津倶楽部は、ミシュランガイドのホテルセレクション「ミシュランキー」において、2024年1ミシュランキーとして選出されたばかり。
その敷地は3000坪です。駐車場に車を停めてから、宿泊棟に到着するまでのアプローチから高揚感マックスにさせてくれます。
山門の先には松による天然のゲートが迎えてくれるんです。
▼先へ進んでようやく見えてくるのは、なんと高さ8mもあるエントランス棟です。そのすべての壁が版築壁なんです。うううっすごい!この空間に身を置くことができただけでもここに来た甲斐がありました。本当に。
こちらW HOUSEなどで日本建築学会賞を受賞した建築家渡辺明の遺作と位置付けられている建築です。
▲この贅沢な空間がお分かりでしょうか。部分的にではないんです。上から下までぜーんぶ版築壁なんです。技と匠の結晶ですね。
マテリアルは非常に日本的でありながら、どこか異国感を漂わせる雰囲気に一目惚れしました。
▲内部の様子です。天井高が8mもあるので天井まで写真に収まりません。内部の写真だとわかりやすいのですが、版築ブロックを積み上げていった工法のようですね。
この写真ではわかりにくいのですが、ソファ席のサイドの版築壁は下が抜けていてキャンチになっているんです。すご!
奥にある長い長いテーブルのトップはなんと一枚板。
背もたれの長い椅子は、川上元美デザインです。流れるような美しい曲線は天童木工の仕事ではないでしょうか(未確認)。磯崎新のモンローチェアを彷彿とさせる美しさです。
▲こちらの写真だとソファ席のサイドの版築壁の下が抜けているのがわかりますね。また、高い高い天井と壁の間には排煙口が設けてあって、ここの意匠も凝っています。あまりにも天井が高いので近くで見ることができないのが残念ですが、開口が波型模様になっています。
そして、この素晴らしいフロントのあるエントランス棟の目の前は大きな水盤なんです。
水と光と緑と建築。完璧な組み合わせです。
というわけで美しい版築壁が印象的な宿泊棟の建築は、まるで東洋のルイス・バラガンです。バラガンの建築はメキシコの激しい太陽の元、目にも鮮やかな色彩を有する壁が印象的ですが、渡辺明の建築は日本的でそのマチエールが美しい版築壁と水盤と松林という和的なモチーフの組み合わせが非常にモダンな空間を構成しています。
▲こちらが客室棟です。どうですか?このバラガン感!日本でこんな場所があったなんて!
宿泊棟は天井高8mのエントランス棟に対して垂直に位置しています。目の前は水盤、その先には松林です。ドンつきにはフロント棟同様の版築壁が建っていて、特に東洋のルイス・バラガン度が高い光景です。←何度も言う
耳を澄ますと駿河湾の波の音が静かに響きます。なんて贅沢な空間。
あぁここで少し早めの夏休みを過ごせて本当によかった。
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沼津倶楽部の客室
客室はなんとたったの8室しかありません。
そのため、共用部で他の宿泊者と居合わせるということもほとんどありませんでした。
▲今回宿泊したのは2階のお部屋。部屋から広いバルコニー越しに見えるのは美しい松林の緑だけ。
これこそゴミゴミとした東京からわざわざ行く価値があるシチュエーションですね。
▲広いバルコニーにはデッキチェアがあるので、空と緑を眺めながらのんびりなんていう事も可能です。
インテリアも和を感じる仕様です。でもどっぷり和ではなく、ありがちな和モダンともちょっと違う。どこの国とも形容し難い異国感があります。フシオシャ〜(勝手に造語:不思議でオシャレ)。
木製のサッシュや葦戸がとても美しいしこの空間にとても合っていました。サッシュは全面的に開けられるのでバルコニーと内部を繋いで使用する事もできます。春や秋なら気持ちよさそう。
マテリアルにこだわりが。クローゼットの扉には和紙が貼られ、壁は壁紙ではなくもちろん塗り壁。あぁ贅沢。
▲そして何と言ってもここの一押しは、この天空の露天風呂です。2階の部屋は全室露天風呂付き。スパ(大浴場)もあるし、部屋にはシャワールームもついています。
スパ(大浴場)はジェームス・タレルの作品のように、天井が四角く開いていて星空を眺めながらお風呂タイムができます。
でも、何と言っても部屋にある露天風呂が気持ちよかった!
重要文化財指定の数寄屋建築
3000坪の敷地に千人茶会をするために建設した数寄屋建築。
竣工してから130年以上経過した現在も大切に引き継がれています。
▲こちらは元々玄関だった場所です。現在はここからの出入りはしていません。
この玄関だった場所の障子がすごかった。
▲奥にいくにつれて、天井が低くなっていく仕様です。
▲奥の茶室です。内部にこのような出入り口があるのは、皇族の方々も茶会に招いたそうで、その際に頭を低くして外部からの躙口から入ってもらうわけには行かないということで、内部から茶室へ入ることができるように設計されたんだそうです。
▲ここも障子の真ん中だけ開けて外が眺められるようになっていたりします。
▲こちらは三輪善兵衛のお母様のお部屋。どの部屋よりも贅沢に作られているんだとか。天井が区切りごとに全部違った仕様になっています。立派な網代天井ですね。
▲お母様の部屋の網代天井もすごいのですが、最もすごいのがこの部屋です。天井も窓枠も窓枠も凝りに凝っています。
今、この部屋と同じことをしようと思っても多分これらの技を持った職人がいないので不可能でしょう。この事実こそが重要文化財に指定された所以です。後世まで守り続けるべき建築です。
今回は特別にとってもダンデイな総支配人に丁寧にご案内いただき、貴重な建築の隅々まで見学することができました。
現在の沼津倶楽部は、重要文化財である貴重な数寄屋建築を守っていくために、宿泊棟を建設したんだそうです。
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沼津倶楽部の食
宿泊するのは渡辺明設計の東洋のルイス・バラガン(私が勝手に言っています)ですが、食事は重要文化財の数寄屋建築にある「茶亭」でいただくことができます。夕食も朝食もここです。
▲「茶亭」は鎌倉にある中華「イチリン ハナレ」のシェフが監修したメニューです。え?せっかく数寄屋建築なのに中華?と思ったのですが、この?はすぐに解決しました。とってもモダンな中華なんです。味は中華ですが、材料は地元沼津のものを多用した美しい一皿一皿。
中華味の懐石料理のようなプレゼンテーションでした。
▲中華の定番「よだれ鶏」が出た後には皮から手作りした餃子が、この餃子をよだれ鶏のタレにつけていただきます。そして、そのあとは麺を入れていただく、3度美味しいよだれ鶏でした。
コース料理全てを紹介しきれないのが残念ですが、前菜からデザートまで、大満足のとってもモダンな中華ディナーでした。
▲朝食もご紹介。朝食は和洋中からセレクトできます。せっかくなので、やっぱり朝も中華に。朴葉に包まれたちまきが美味しかった!
▲そして、こちらが出来立てがせいろごと提供される熱々のシュウマイです。
これは人生で初めて食べるふわふわ柔らかな”飲めるシュウマイ”でした。朝から大満足〜!
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沼津倶楽部は、渡辺明の東洋のルイス・バラガンのような宿泊棟、そして大正時代から引き継がれてきた重要文化財の数寄屋建築、大満足のモダンな中華と三拍子揃った大人のホテルです。
素晴らしい建築というのは、緑豊かな春や夏だけでなく、秋には秋の、冬には冬の良さがあるんです。
ぜひ、季節を変えてもう一度行ってみたい。そう思わせる場所です。
基本情報
沼津倶楽部
静岡県沼津市千本郷林1907−8 MAP |