東京都庭園美術館で開催されている「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」を鑑賞してきました。予備知識ほとんどなしで行ったのですが、予想を上まわる見応えのある展覧会でした。
PR奇想のモード
タイトルからして、ファッションに特化した展覧会だと思っていたのですが、20世紀最大の芸術運動シュルレアリスムがモードに与えた影響と、モードとアートの関係を「奇想」というキーワードで掘り下げた展覧会でした。
1930年代を中心としたファッションの資料展示だけでなく、もっと古いもの、そして新しいもの、更にはサルバドールダリや、ルネ・マグリット、ジョルジュドキリコ、マンレイなど当時モードに強い影響を与えたであろうシュルレアリスムのアーティストの作品も展示されています。
また、それだけではなく、アートに強い影響を受けたモードと、モードに強い影響を受けたアートなど、時代を問わず展示されています。ですから、広義的な「モード」の展覧会と捉えるのが正解だと思います。
PR本館作品展示
この展覧会は8つのチャプターに分かれており、必ずしも時代順というわけではなく、かなり緩〜い時系列になっています。本館にはチャプター1ー8まで、新館にはチャプター7と8が展示されています。
展覧会には、洋服そのものより、アクセサリーやモード雑誌、帽子などモードの周辺の資料展示と共に美術作品が展示されています。
サルバドール・ダリ
会場に入って最初に迎えてくれるのが、シュルレアリスムの代表作家と言っても過言ではないサルバドール・ダリのブロンズの作品2点です。
しかし、ダリの作品は今回の展覧会図録に一切掲載されていません。おそらく1990年朝日新聞主催の展覧会で、ダリの絵画を無断でカタログ掲載したことに対する裁判で、1997年に朝日新聞社が敗訴した、俗にいう「ダリ著作権裁判」が影響しているものと思われます。
ですから、ダリの作品は、撮影もできませんし、図録にも掲載されていません。美術館でしっかり目に焼き付けてください。
ダリの立体作品は、本館2階にも2点展示されています。そのうちの1点「象徴的機能をもつシュルレアリスム的オブジェ」にはedがあって6/8でした。なかなか繊細な立体だったのでedがあることに驚きました。
他にはダリが描いたモード雑誌の代表「ヴォーグ」の表紙絵を見ることができます。
写真撮影と建築見学について
本館は残念ながら撮影禁止です。ですから、建物目的で訪れても写真を撮ることはできません。撮影可能なのは、新館の展示のみです。
また、今回は作品の保護のため全ての窓は閉じられ、一切外光が入らないようになっており、更に更に残念なことに2階のベランダに行くことができません。
ですから、旧朝香宮邸の建築を目的で行くとちょっと消化不良になると思います。
庭園美術館の建築については▼
さらに現在、新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、庭園の立ち入りが禁止されています。茶室「光華」も同様です。庭園美術館の庭園にある茶室「光華」については▼
https://www.artarchi-japan.jp/2021/12/shirokane-meguro-momiji-sanpo.html
現代美術
ファーブル昆虫記でお馴染みのアンリ・ファーブルの子孫で、金沢21世記美術館の「雲を測る男」の作者であるヤン・ファーブルの玉虫の作品が、ダリの立体作品と同じ大広間のチャプター1にあります。この作品は、今回の展覧会のメインビジュアルにもなっています。
日本人アーティストでは、チャプター3の「髪と向かう、狂気の愛」に小谷元彦の1997年の作品「ダブル・エッジド・オヴ・ソウト(ドレス202)」が出品されています。
この作品は最初期の頃の作品で毛髪でできたドレスです。振り返れば小谷元彦の東京芸大大学院の卒業制作を芸大で見たのですが、卒制も毛皮のドレスでした。この頃の小谷元彦作品は非常にモード近しいものだったとかなり以前の記憶が蘇りました。
ファッションでは、TOKIO KUMGAIのヤナ・スターバックばりの肉の靴は初めて見たので驚きました。調べてみたらハイヒールバージョンもあるようです。
そういえばヤナ・スターバックの作品が今回の展覧会にあっても良さそうですが、なかったですね。
PR新館作品展示
新館は、主に現代のアーティスト、デザイナーの作品の展示です。
ユアサエボシ
新館ギャラリー1のエントランスに展示されているのは、架空の作家に擬態して作品制作をするユアサエボシの平面3点です。この作品は2021年の作品で、ギャラリー小柳でのグループ展「still life 静物」以来の再会です。
ユアサエボシは1987年にすでに亡くなっているのですが、2021年制作のこの展示作品は、紛れもなくユアサエボシが制作しており、少なからずシュルレアリスムの影響も感じられます。
ユアサエボシは、過去とか未来とか時間の概念を軽々と凌駕した存在の作家であり、ユアサエボシという作家の存在自体が「奇想」そのもの、いや「奇想天外」です。
PR存在そのものが「奇想天外」なユアサエボシの作品からスタートして、3人のアーティスト・デザイナーの作品展示のスペースに入ります。
館鼻則孝
縦鼻則孝の作品はあちこちで目にしますが、今回7つのヒールレスシューズが大きなものからベビーサイズまで、類人猿から人になるまでの人類の歴史を表すかのように並列で展示されていたのが面白かったです。
それは、もう靴なのか、オブジェなのか。モードとアートを自由に往来している作家の代表ではないでしょうか。
PR永澤陽一
永澤作品は、本館のチャプター3にマルタン・マンジェラのビーバーの毛のドレスと並んで人工毛のボディアクセサリーが展示されています。それは写真撮影不可なので、掲載できませんが、繊細で美しいキャミソールでした。
新館にはこの2008年制作のジョッパーズパンツです。本館展示の作品とは対極にあるような荒々しさすら感じる近強いモードです。馬の嗎が聞こえてきそう。
串野真也
今回の展覧会は衣装というよりその周辺のものが多く、串野作品も例に漏れず全て靴です。装飾的で物語性の強い靴の数々が所狭しと並べられています。しかし、もはやその機能はほぼ失われていると言ってもいいものばかりです。
スプツニ子!とのユニットによる作品がギャラリー2にて展示されています。この作品は森美術館で2020年に開催された「未来と芸術:AI、ロボット、都市、生命 ー 人は明日どう生きるのか」に出品されていた作品です。
黄色のカラーフィルムを通して見るとドレスが変化します。▼
PRCafe TEIEN特別メニュー
庭園美術館に来たら楽しみなのがCafe TEIENです。今回の特別メニューのケーキは縦鼻則孝のヒールレスシューズ レディポワントをイメージした紅玉リンゴのポムルージュでした。
ここのケーキはお値段もはるのですが、ハズレがないのでいつも楽しみにしています。▼
ケーキのイメージは縦鼻則孝のヒールレスシューズ レディポワント▼
ミュージアムカフェについては▼
展覧会を見て
纏足やコルセットなどその時代には「奇想」と考えられていなかったことが、現代ではとんでもない「奇想」であること、モードとアートの境界は、時代とともに曖昧になってきたのかと思っていたけれど、そうではなく、常に曖昧であったこと。
このことからわかるように、モードとアートは常に付かず離れず、互いに行ったり来たりしながら、歴史を刻んできたと同時に、過去の平凡な事がとんでもなく奇想だったり、過去の奇想が平凡な事に変化したりするのかもしれません。
基本情報
2022年1月15日(土)~2022年4月10日(日)月休 10:00–18:00 会期終了
一般1400円、大学生1120円、中学高校・65歳以上700円 オンラインによる日時指定制
東京都庭園美術館
港区白金台5丁目21−9 MAP
JR目黒駅東口・東急目黒線目黒駅正面口徒歩7分
都営三田線・東京メトロ南北線白金台駅1番出口徒歩6分