東京オペラシティアートギャラリーでは、川内倫子の個展「M/E」と同時開催で「収蔵品展074 連作版画の魅力」展を開催しています。これがとても興味深く面白かったのでご紹介します。川内倫子展の入場チケットで鑑賞可能ですのでぜひ一緒にこちらも堪能しましょう。

連作版画の魅力
オペラシティアートギャラリーの4階では主に所蔵作品である寺田コレクションから、いろいろなテーマに沿った展覧会を開催しています。先日大盛況で閉幕したライアン・ガンダー展では、この4階の展示室で「ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」が行われたのは記憶に新しいところです。
今回は、約4000点に及ぶ寺田コレクションの中で約1500点を占める版画作品の中から、選りすぐりの114点を鑑賞することができます。
今回特に面白かったのは、版画家による版画作品ではなく、版画家ではない作家による版画作品が特に興味深いものが多かった気がします。
普段は、油彩や彫刻、あるいはインスタレーションなど版画の世界とはかけ離れた作品を制作している作家が取り組んだ繊細なあるいは大胆な版画の世界を楽しみました。

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李禹煥
会場に入ってすぐに目をひくのは現在国立新美術館で個展開催中の李禹煥の版画作品です。
李禹煥の作品は版画になってもすぐに分かります。

大判の作品はリトグラフの連作です。▲

こちらも1977年のリトグラフ8点組み作品「点より 線より」▲上段が「点より」下段が「線より」

「線より」のアップ▲

李禹煥のリトグラフはいろんなところでよく目にしますが、銅版画はあんまりみたことがない気がします。▲
これは銅版画のしかもドライポイントです。「from line」1981年

ドライポイントは、銅版画の中でも力強い技法でニードルなどで直接銅版を削る制作方法です。李禹煥のタッチが銅版に削られます。
画面下部にある23/50というのはエディションで50枚刷ったうちの23枚目という意味です。▲

李禹煥は、今回の展覧会で一番多く出品されていました。▲
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伊庭靖子
通常は油彩を制作している作家です。その柔らかな作品は、魅力的で個人的にかなり好みです。

この作品は全て2004年制作の「Untitled」。4枚組のシルクスクリーンです。
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若林奮
この展覧会で一番驚いたのが、若林奮の銅版画です。とっても力強い鉄の彫刻家のイメージがあるので、こんな繊細なエングレーヴィングを制作していたなんて知りませんでした。

ガラスケースの中の作品。繊細でしかもとっても可愛らしいモチーフが描かれています。▲壁面作品は李禹煥

軽井沢のセゾン現代美術館の若林作品は彫刻というより建築に近いくらいの大型作品ですが、オペラシティでは、こんなに小さい作品がみられます。
若林奮の意外な一面を垣間見た気がします。
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中西夏之
赤瀬川原平、高松次郎らとハイレッドセンターとして活動し、大量の洗濯バサミを画面に用いた作品で有名な中西夏之も実はなんとも繊細な版画を制作していました。

土佐の手漉き和紙に刷られたエッチング5点組作品「エニアグラム」は1997年の作品です。▲
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舟越桂
憂帯びた木彫の人物像で有名な舟越桂のドライポイントです。とても舟越桂らしい版画で意外性はありませんが、立体とは違った魅力があります。

版画はエディションがあるので(同じ作品が複数存在する)、油彩や立体作品のような一点ものよりは購入しやすい価格設定になります。
ですから、売り手であるギャラリーとしては、人気のある作家の版画を制作するなら、1枚2枚ではなく何枚かセットにして版画集として売り出すという事はよくあることです。
作家側としても普段制作しない技法での制作を楽しむというパターンは多いのではないでしょうか。
だから、版画家ではない作家の版画作品は技法の枠にとらわれずとても自由で楽しく、時に意外な作品が誕生するのでしょう。
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寺田小太郎
1927(昭和2)東京生まれ。1988年新国立劇場建設のため官民一体となった都市開発事業が開始され、寺田小太郎は所有していた土地を提供し、このプロジェクトに唯一の個人として参画しました。
その時に行政が掲げた文化施設を設置するプランに賛同し、美術館創設(現在の東京オペラシティアートギャラリー)を提案し、私財を投じて美術館創設に向けて収集活動を開始しました。それがオペラシティアートギャラリーの寺田コレクションです。
東京農業大学緑地土木科(現造園科学科)および同大学農学部農業経済学科出身で、生涯造園の仕事に携わりました。1980(昭和55)年に自身の創造園事務所を設立し、東京オペラシティビルの植栽・管理を行っていました。2018(平成30)年逝去。

project N 88 䑓原蓉子
projectNは、同じく4階で開催している若手作家の展覧会です。
䑓原蓉子は羊毛を使い、タフティングというカーペットの制作技法を用いた平面作品を制作する作家です。

どっからどうみてもラグというかカーペットというか、既製品のような完成度の作品の数々▲

iPadのペインティングツールを使って描いたドローイングを元に膨大な時間をかけてこのような作品を制作します。
60センチ角の作品で約2週間かかり、使う毛糸は200玉ほどだそうです。時間と量がびっしり詰まった重厚な作品です。
ここまで書いた通り、東京オペラシティアートギャラリーでは、川内倫子展「M/E」、収蔵品展「連作版画の魅力」、Project N 88 䑓原蓉子と3つの展覧会を楽しむことができます。時間に余裕をもって訪問し、隅々まで楽しみましょう。
基本情報
2022.10.08[土] – 12.18[日] 11:00 - 19:00 11/3─ 6アートウィーク東京のため10:00 開館 月休 東京オペラシティ アートギャラリー 4F ギャラリー3&4 寺田小太郎メモリアルギャラリー 新宿区西新宿3丁目20−2 MAP アクセス:京王新線初台駅東口下車徒歩5分 |
同時開催の展覧会
李禹煥展
東京オペラシティ
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