文京区本郷にあるトーキョーアーツアンドスペース本郷/TOKYO ARTS AND SPACE HONGO(TOKAS)は、90年以上前に建てられた建物をリノベーションした東京都の公立アートスペースです。
元職業紹介所・職業訓練校
トーキョーアーツアンドスペース本郷/TOKYO ARTS AND SPACE HONGO(TOKAS本郷)の建物は、1928年(昭和3年)に職業紹介所として、東京都(当時は東京市)の設計、小田組の施工により建設されました。
開所の翌年1929年には、1階と2階に婦人少年職業紹介所、3階に知識階級(中学卒業から大学・専門学校卒業程度の高学歴層 )を対象とする本郷職業紹介所が開所しました。当時、都内には公立の職業紹介所は、小規模なものが2ヶ所しかないような時代でした。
戦後は、日雇労働の紹介機関 として使われ、1949年からは1991年まで職業訓練校の校舎でした。
PR建築
3階建ての鉄筋コンクリート造のTOKAS本郷は、施設としての用途変更や、1945年の空襲による2階・3階の焼失など、これまでに度重なる改修を経て現在の姿をとどめています。
エントランスの赤茶色の壁は、火山灰入りのカラーモルタルを塗りつけたものです。風格ある昭和初期のコンクリート建築に絶妙に馴染む色彩とマチエールの壁面です。▼
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左官職人
TOKAS本郷として再生するための2001年の改修工事では、左官職人久住章によって、壁や床に左官による仕上げが手掛けられています。
1階の床は、赤貝石灰くず、関東ローム層、赤土でできた三和土(たたき)です。よーく見ると貝殻が混じっていて、床も作品のようです。
作品は2020年に開催された「停滞フィールド」展の広瀬菜々&永谷一馬です。▼
エントランスの壁にある作品のような青い長方形の部分は、左官職人久住章による大津磨きの壁で、久住輝によるドローイングが施されていす。▼
2階の展示室の床も見逃していはいけません。富士山の粒状の焼砂、黒土、セメント、赤土などによる焼砂黒土締の三和土です。▼
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昔の面影
3階建てですが、古い建物なのでエレベーターはありません。ですから2階、3階の展示室にはこの階段で上ります。この階段もかなり趣があります。
ヘアピンカーブしたテラゾーのような階段の手すりはおそらく竣工当時のものだと思います。▼
3階の展示室は、床はフローリングですが、その天井や梁に残るモールディングが昭和の面影を色濃く残しています。
2020年「停滞フィールド」展の田中秀介の作品の展示風景▼
そのはじまり
職業訓練校としての役目を終えた後は、教育庁お茶の水庁舎として使用されていましたが、更なる改修を経て2001年にTOKAS本郷としての新たなスタートをしました。
オープン時、実はトーキョーワンダーサイト本郷という名称でした。その始まりは、先日亡くなった石原慎太郎が都知事時代に発案したものです。まだ、当時のトーキョーワンダーサイトHPが残っているので当時のことを知りたい方は参照してください。
2017年に現在の名称に改称されました。
ステンドグラス作家は誰?
階段にステンドグラスの作品がありますが、TOKAS本郷の公式HPでは一切触れていない謎の作品です。なぜかというと、元東京都知事石原慎太郎氏の四男で画家の石原延啓が原画制作をしたものだからです。
故人を悪くは言いたくありませんが、石原元都知事の親バカ炸裂で過剰な予算計上や身内エコ贔屓人事、出張費問題などが次々に取り沙汰されましたが、「余人をもって代え難い」発言でかわしたあの事件もだんだん記憶が薄れつつあります。
そんなトーキョーワンダーサイトの負の遺産ともいうべきステンドグラスが現在も階段には、燦然と輝いています。ただ、四男は原画を描いただけで、ステンドグラス職人さんに罪はありません。その技術には敬意を表したいと思います。▼
PRウォールタトゥー
ステンドグラスは曰く因縁がありますが、この建物のアートはそれだけではありません。
2003年にドイツ人アーティストマーティン・シュミットによるウォールタトゥーが施されました。何ヶ所かあるので探しながら館内を歩いてみましょう。▼
こちらは花の作品です。ステンドグラスの隣にあります。▼
PR過去の展覧会
2019年に開催されたACT (Artists Contemporary TOKAS) Vol. 1 “霞はじめてたなびく”の佐藤雅晴の作品です。この展覧会会期中に惜しくも49歳の若さで亡くなりました。
訃報を聞いて足を運んだので、自動ピアノが奏でる旋律が、まるで肉体を失った作家本人が演奏しているようで、ただただ切なかった記憶があります。▼
2020年の「停滞フィールド」の展覧会での渡辺豪作品。映像作品ですが、その静かな迫力に圧倒されました。もう一度鑑賞したい作品の一つです。▼
PR「接近、動き出すイメージ」
ACT (Artists Contemporary TOKAS) Vol. 4の展覧会は「接近、動き出すイメージ」でした。
参加作家は3名で、齋藤春佳、中澤大輔、ユアサエボシです。齋藤春佳、中澤大輔は、1928(昭和3)年竣工のTOKAS本郷の建物の歴史から着想した新作の展示。
ユアサエボシは、その時代に生きた架空の画家ユアサヱボシの絵画を展示します。
ユアサヱボシ
昭和初期に建てられた建物を平成になってリノベーションした空間で、大正生まれの画家に擬態した作家の作品を令和に鑑賞するというなんとも不思議な体験ができます。
時間という概念を嘲笑うかのような作家の描く世界は、シュールな異国情緒に溢れているのに、ひどく日本を感じるのはなぜなんだろう。▼
中澤大輔
現代版の《本郷職業紹介所》が期間限定でオープン▼
面談を行うこともできます。自分の職業を見つめ直すいい機会になるかもしれません。▼
PR齋藤春佳
TOKAS本郷の建物を建設時に工期が遅れたこと、また1945年の空襲によって被災したことに着目したインスタレーション作品です。
映像やドローイングだけでなく言語も使った作品です。
PR展覧会基本情報
2022年2月5日(土) – 3月21日(祝) 11:00-19:00 入場無料 会期終了
展覧会を鑑賞後に昭和初期の建物から外に出ると、目の前にはバブル真っ只中に旺文社の赤尾氏によって建てられた日本で最初のノーマン・フォスター建築センチュリータワーが聳え立っていました。現在は順天堂大学11号館ですが。
時の流れを感じずにはいられない光景です。▼
石原元都知事のトーキョーワンダーサイト発案のきっかけは親バカだったかもしれないけれど、機能としてはいい施設だと思うので、東京都に税金を払う都民の一人として今後も良い展覧会企画を期待します。
TOKAS本郷 基本情報
東京都文京区本郷2丁目4−16 MAP