代官山ヒルサイドテラスF棟にあるヒルサイドフォーラム・gallery ON THE HILLにて黒谷和紙作家のハタノワタルの個展「とまる」が開催されているので行ってきました。
展覧会の冒頭にはテーマである”隠遁生活”を象徴するような和紙の可愛い家が▼
「とまる」
あの杉本博司氏と数々の空間を生み出す新素材研究所の榊田倫之がモデレーターで、ハタノワタル氏とミナペルホネンの皆川明氏の3人によるオンライントークが展覧会の初日に開催されました。
このオンライントークはいつでも誰でも観ることが可能なので是非視聴してみてください。
トークでは、目まぐるしく時間が流れていく日常の中で、時間を止めてふと立ち止まった時に自分のやってみたいことが見えてきたことから展覧会のタイトルは「とまる」になったという話をされていたハタノワタル氏。
その話を受けて、皆川氏が展覧会を鑑賞した時に「動いているけれど静かな感覚、何かが”とまる”ことによって何かが”動いている”ことが認識できる。」ということを発言されていて、この言葉が、会場に赴いた時にスコーンと頭の中を貫くような感覚を覚えました。
また、最近はサボっていると謙遜されていましたが、ハタノワタル氏は書もやられていて、今回の展覧会タイトルの文字「とまる」もご自身で書かれた字です。▼
この展覧会タイトルの文字について皆川氏も絶賛していました。確かにとっても温かみがあって心に響く書です。
リトリート/隠遁生活
展覧会のテーマは「リトリート/隠遁生活」。会場内に壺を置いてみたり、まっ黒な和紙の絵画の前でゆっくりとお茶を飲む時間をイメージした住空間の構成など”暮らしの中の和紙”を表現しています。
和紙の敷板の上の小さな湯呑みがなんとも愛らしい▼
今回の展覧会は出品されているものや平面作品のサイズは様々ですが、色は黒と白だけで統一されています。
黒は、築100年の自宅の茅葺き屋根の屋根裏の闇から想起した色、白は海岸で拾ったものが褪色していく時にどんどん白くなっていくさまから、時間の経過を象徴する色として選んだそうです。
会場内はこの2色、黒と白が対峙することで、時間と奥行きが交差する空間構成となっています。
展覧会場
展覧会は通常通りヒルサイドフォーラム全体での展開ではなく、一部スペースにて開催されています。それがかえって凝縮された展示になっていてよかったです。
入口横にあるgallery ON THE HILLでは、和紙をはじめとした様々な小品が販売されています。
照明
奈良に拠点を持つ永冨裕幸+奈良千寿による照明デザインユニットNEW LIGHT POTTERYが展示構成に参加してるだけあって、今回の展覧会空間の中で照明は重要な要素でした。暮らしをイメージしたポイントポイントに設置された照明がとても印象的ですごく素敵。そして、欲しい。でも設置する場所が‥。
この照明は、NEW LIGHT POTTERYの照明器具にハタノワタル氏の和紙が設えられたもので購入可能です。▼
「窓からの風景」
暮らしの中や旅先などで見た心に残る風景を描いた「窓からの風景」シリーズは唯一具象が描かれた作品です。
それぞれ、青森県の白神山地、京都綾部市の近所の風景、北海道の牧草地を描いたもので、皆川氏が北海道の牧草地の作品を購入したそうです。
写真左側に並ぶ3点が具象的な「窓からの風景」シリーズ▼
黒谷和紙の魅力
展示しているテーブルや什器にも、当然和紙が貼られていて、全て販売しています。和紙が貼られているだけで、シャープなデザインの什器も何故かとても素朴で温かみのあるものに感じる不思議。
ハタノワタル氏がトークで語られていた黒谷和紙の魅力は、日本で一番古くから作られてきた和紙であること。制作に使う道具は2種類だけであること。素材は楮(こうぞ)だけであること。
また、長い長い和紙の歴史の中で、いろいろな装飾的な技術が出てきたけれど、やっぱり生のままのシンプルな楮紙(こうぞし)が一番美しいということです。
昨今は技術も材料も目紛しく進歩していますが、黒谷和紙は素材も製作過程もシンプルでありつづけることに価値があるのだと感じました。
会場内は、全てを包み込むことができる黒谷和紙の魅力で満たされた展覧会でした。
ハタノワタル作品価格
ハタノワタル作品価格は、黒の什器(サイズ450x450x900mm)一つ49,500円です。買えない価格ではないですね。また、照明器具ライト・パレットフラットシェードはNEW LIGHT POTTERY &HATANOのコラボレーションで一つ78,100円です。
箱類はA4で7480円、A5で5280円、名刺サイズ(浅)で1980円などなど、が実際に会場にて販売されています。
(全て2021年10月の個展での価格)
ハタノワタル作品は通販でも購入できますが、やっぱり実際にこの目で色合い、風合いを確かめられる機会に購入したいですね。
尾道LOG
オンライントークで尾道LOGの話もされていました。当初尾道LOGを設計したスタジオ・ムンバイのビジョイ氏は客室の壁と天井は和紙だけれど、床は絶対に畳と断言していたそうです。しかし、全てに和紙を使ったハタノワタル氏の自宅を訪れて、壁と天井だけでなく床も和紙にすることが決まったそうです。
尾道LOGの客室の床が畳だったらあの唯一無二の空間にはなり得なかったと思います。窓から差し込む自然光の中で見るハタノワタル氏の和紙の部屋は、輪郭線がぼやけるような柔らかい空間で、本当に癒されました。また行きたい場所の一つです。
ハタノワタル関連記事
LOGの客室についてはこちらを参照ください。▼
2021年5月に開催された「紙の表現」BY HATANO WATARU カール・ハンセン&サンはこちらを参照ください。▼
展覧会基本情報
「とまる」 黒谷和紙作家 ハタノワタル展
2021年10月8日(金)- 10月17日(日)11:00~19:00(10/17〜17:00)入場無料
渋谷区猿楽町18-8 ヒルサイドテラスF棟1Fヒルサイドフォーラム gallery ON THE HILL