白金台にある港区立郷土歴史館は、内田祥三(うちだよしかず) が設計し、1938年に竣工した旧公衆衛生院だ。
現在は、港区の歴史を紐解く博物館となっているので誰でも中を見学することが可能である。さらに、有料展示室に入らずに建築を見学するだけなら無料で入ることができる。とにかく建築だけ堪能したいと言う方は、無料ゾーンだけで十分である。
無料と言ってもエントランスから入って正面に位置する円形の吹き抜け空間や、旧院長室、旧次長室、そして、内部で一番見応えのある旧講堂を見ることができる。
築86年の旧公衆衛星院の外観は、昭和初期の建築らしく威厳のある佇まいだ。外壁に使用されているのは、内田祥三建築の特徴の一つであるスクラッチタイルである。スクラッチタイルというのは、タイルの表面に無数の溝が模様として施されているもののこと。
また、内田祥三は内田ゴシックと称されるゴシック調のデザインを取り入れた建築を多数手がけており、ここ旧公衆衛生院も、また対になって建設された隣の敷地にある東京大学医科学研究所も内田ゴシックである。
正面玄関へ上るための階段は、優雅に連なるアーチまで続いており、単に建築見学のために訪れた一般人でもなんだか優雅な気分に浸れるのだ。
隣の東京大学医科学研究所もそうであるが、昭和初期の公共建築は、とにかく敷地に対して非常に贅沢に建てられている。
正面入り口の前には池が造られており、その周囲をつつじの低木が植えられている。春先になると池の周りが躑躅で彩られる。また、実は隣の敷地に植えられているのだが、まるで旧公衆衛生院のためであるかのような場所にある桜の大木が、春になって花を咲かせるとアーチ越しにその愛らしいピンクが見えて、非常に美しい。
とにかく取り壊されることなく、今後も季節ごとの美しさを堪能できるのが嬉しい。
アーチの前の外階段も吹き抜けの内階段も、上り下りするだけで建設当時の昭和初期の世界にタイムスリップしたような気持ちになれる。
それは単になるべく当時の面影を残しながら保存維持されているからだろう。