建築とアートを巡る®︎が茨城と栃木を実際に巡って出会った名建築や美術館を紹介します。
少し前に「水戸で建築とアートを巡る」旅を紹介しましたが、今回はその拡大版。名建築に1泊して茨城と栃木をクルマで巡ります。
茨城・栃木と2つの県を回りますがスケジュールはけっこうルースな感じなので、水戸市の建築とアートをくっつけてみたり、栃木に多い隈研吾建築を巡ってみたりしてアレンジしてみてください。
<日立駅>
妹島和世
スタートはJR東日本の「日立駅」から。
父親が日立製作所勤務で日立市出身の建築家、妹島和世が橋上駅舎と自由通路の設計を手がけています。
▲ちょっと早起きしてでも見る価値があるのが妹島和世/SANAAらしいスタイリッシュな駅舎の大きなガラス窓から見る日の出。
早朝なら首都高の都心環状線から常磐道を北上し、途中休憩を入れても2時間ほどで到着します。
妹島和世は海のすぐそばにあるのになぜ日立駅から海が見えないんだろうとずっと疑問だったそうす。地元の人が普段は気にもとめない海でもこうして演出するとまったく違い表表情を見せてくれます。
▲橋上駅舎の箱型に出っ張った部分は「シーバーズカフェ」というカフェ。
カフェと休憩スペースを鉄道駅の機能の邪魔にならないよう海側の空いてるスペースに追いやった・・というかもう海を見せたくてこういう配置になっているのでしょう。
▲日の出直前の様子です。
こんなに人がいるのかと驚くかもしれませんが、この人たちは日の出が目当てなので太陽が顔を出すとさっと居なくなります。
シーバーズカフェは朝7時開店なのでモーニングしながら朝陽の海を見るのも良いでしょうね。
建築と太平洋の眺望を味わえるので早朝の日の出の時間帯以外に訪れても満足できると思います。
基本情報
| JR東日本 日立駅 自由通路及び橋上駅舎
設計:妹島和世 供用開始:2011年 住所:茨城県日立市幸町1−1 MAP |
<日立市役所 新庁舎>
SANAA
日立駅からクルマで数分のところにあるのが「日立市役所」。
東日本大震災で被災した旧庁舎を建て替えたもので2019年にグランドオープンしています。
▲庁舎自体も白を基調としたSANAAらしいデザインですが、やはり庁舎前広場やバス停などを囲む半円形の大屋根がみどころ。
市民に開かれた場所というコンセプトは師匠である伊東豊雄譲りなのかもしれません。
なお日立市役所庁舎の設計は西沢立衛とのユニット名であるSANAAとなっています。
基本情報
| 日立市役所 新庁舎
設計:SANAA グランドオープン:2019年 業務時間:8:30 〜 17:15 開庁日:月曜日〜金曜日 住所:茨城県日立市助川町 1−1−1 MAP |
<茨城県天心記念五浦美術館>
内藤廣
日立市役所の次はクルマで1時間ほど(常磐道を使えば40分ちょっと)北上し、茨城県に3館ある県立美術館の一つ、建築家の内藤廣が設計した「茨城県天心記念五浦美術館」へ。
情報過多な名称なので簡単に説明すると、”天心記念” は東京美術学校(今の東京藝術大学) の校長でフェノロサと一緒に日本美術を世界に紹介した岡倉天心のこと、 ”五浦” というのは美術館の所在地である北茨城市の五浦海岸のことです。
岡倉天心は五浦の環境が気に入り、この地にアトリエを構え晩年の多くの時間を過ごしただけでなく、日本美術院を五浦に移転し弟子の横山大観や下村観山を呼び寄せ芸術家の「理想郷」を目指します。
そんな歴史的背景をもとに五浦の作家たちを紹介するとともに、現代の多様な日本画を紹介するのが天心記念五浦美術館です。
▲建物の設計は内藤廣。
大規模な公共建築としては初期のものとなります。
▲土壁の設えなど後年の内藤廣さ場所がうかがえたりします。
五浦美術館には企画展などの展覧会を行う展示室の他に岡倉天心の作品や資料などを展示する「岡倉天心記念室」があり、今ひとつ分かりづらい岡倉天心の業績を知るにはとても良い場所です。
さらに美術館には珍しく、敷地内に展望台や展望広場があり、そこからは対岸の小名浜港やいわきマリンタワーまで見渡せるまさに絶景ポイントです。
そして絶景なのは五浦美術館だけでなく、すぐ近くの岡倉天心ゆかりの施設も同様です。
▲五浦美術館から自動車で3分ほどの「茨城県天心記念五浦美術館」は旧天心邸を含む天心遺跡を国立茨城大学が譲り受けたもので、その設立は五浦美術館より古い1955年です。
最大の見どころは天心が「観瀾亭(大波を見る東屋)」と名付け、瞑想などに利用していた「六角堂」。
東日本大震災の津波で消失してしまったので今あるのは再建されたものです。岡倉天心とその住居というと谷中の「岡倉天心公園」を思い起こしますが、あそこにある六角堂はここ五浦のものを模したものだそうです。
波打ち際に建っているので海が荒れている時は目の間で大波が割れ迫力ある光景を目にすることができます。
さらに近くの五浦岬公園やその展望塔からは絶壁に立つ六角堂の姿を見下ろせます。
建築とアートと絶景をまとめて楽しめる五浦海岸です。
基本情報
| 茨城県天心記念五浦美術館
設計:内藤廣 開館:1997年 (平成9年) 開館時間:9:30〜17:00 休暇日:月曜日 住所:茨城県北茨城市大津町椿 2083 MAP |
<国民宿舎 鵜の岬>
内井昭蔵
五浦から今度は国道6号を30分ほど南下し「国民宿舎 鵜の岬」へ。
国民宿舎の中で最も予約が取りづらい宿の一つだそうですが、ここは世田谷美術館や元麻布ヒルズの外観デザインで知られる内井昭蔵による設計なのです。
▲大小のお皿を並べたような屋根が内井昭蔵らしいデザイン。
▲レストランのドーム型の天井。
太平洋を見ながら食事ができます。他にもカフェがあって、そこからも同じように太平洋を眺めることができます。
カフェで休みながら周りの会話に耳をそばだててみると、東北地方や茨城以外の北関東のお国言葉が聞こえてきて、さすが人気宿は日本中からお客さんが集まるんだなぁと実感します。
基本情報
| 国民宿舎 鵜の岬
設計:内井昭蔵 竣工:1997年 住所:茨城県日立市十王寺伊師640 MAP |
<キアラ館>
白井晟一
国道6号をさらに30分ほど南下して茨城キリスト教学園の「キアラ館」を見学。ここは孤高の建築家とも呼ばれた白井晟一(しらい・せいいち)の唯一の礼拝堂建築で、今回の旅の白眉とも言える場所。
こども園から大学まである教育施設内の礼拝堂なので見学には事前予約が必要です。学校行事があって見学できない日や時間帯もあるので必ず事前にメールで問い合わせて予約しておきましょう。
▲白井晟一の独特の光の使い方が映える礼拝堂の内部。訪問した時(2025年後半)は点かない電灯があったりして、本当はもっと美し荘厳な雰囲気なのだそうです。2026年には整備するするそうなのでそれから訪問しても良いかもしれません。
レンガ造りの外観は同じ年に竣工した飯倉の「ノアビル」との共通点があちこちに見つかります。
また隣接して建つ5号館も白井晟一ですので、白井晟一建築をいっぺんに見ることができるという訳です。なお5号館は大学の教室として今も現役で使われているので見学は外観だけにとどめておきます。
「キアラ館」という珍しい名前は、キリスト教の聖人「アッシジのフランチェスコ」と行動を共にした「アッシジのキアラ(クララまたはクレアとも)」に因んで白井晟一が命名したのだそうです。
想像ですがキアラ館を建築中の1973年にアッシジのフランチェスコとキアラ(映画内ではクララ)を主人公とするフランコ・ゼフィレッリ監督の映画「ブラザー・サン シスター・ムーン」が日本公開されていて、白井晟一はこれを観てヒントにしたんじゃないかなぁと思っています。
この映画はオリビア・ハッセー主演の「ロミオとジュリエット」を監督したゼフィレッリの新作映画ということで日本でも期待されて公開されていたそうです。
基本情報
| 茨城キリスト教学園 キアラ館
設計:白井晟一 完成:1974年 住所:茨城県日立市大みか町6-11-1 MAP |
ここまで妹島和世の日立駅〜内藤廣の五浦美術館〜白井晟一のキアラ館とヘビー級の建築が続きけっこうくたびれて来ていると思いますが、実はこの時点でもまだ美術館の閉館まで余裕のある時間帯だと思います。
ここからさらに国道6号を30分ほど南下すると水戸市です。磯崎新の水戸芸で展覧会を観たり、伊東豊雄の水戸市民会館でひと休みしたり、あるいは少し早めに水戸で夕食にしてもいいですね。
そして今夜の宿がある栃木県へ。
<フォレストイン益子>
内藤廣
栃木での建築とアートを巡る旅の拠点は陶芸の町、益子町の「フォレストイン益子」。五浦美術館と同じ内藤廣の設計です。
県立の自然公園「益子の森」のトレイルセンターが「フォレスト益子」で、その中の宿泊施設が「フォレストイン益子」です。
▲アーチ状の建物は御殿場の「とらや」のプロトタイプとも言えるかも。
▲木材を多用した内藤廣らしい建築です。
今回は他にお客さんがいないような状況でしたが、益子で大陶器市が開催されるGWの時期と文化の日の時期はたぶん満室になるはずです。
基本情報
| フォレストイン益子
設計:内藤廣 開業:2002年 住所:栃木県芳賀郡益子町大字益子4231 MAP |
<道の駅 ましこ>
マウントフジアーキテクツスタジオ
フォレストイン益子は朝食が出ないので、朝は近くの「道の駅 ましこ」で。
ただの道の駅ではなく原田真宏+原田麻魚によるユニット「マウントフジアーキテクツスタジオ」が設計したモダンで格好良い道の駅です。
▲遠くの山並みに馴染むような大きな山形の屋根が特徴。
風景に溶け込み、新たな風景を作り出すのがコンセプトのようです。
地元の木材が使われた天井と大きなガラス窓。窓からは田園風景とその向こうの山並みを見渡すことができます。
陶芸の町、益子なので土壁も益子産だそうです。
2016年の開業時から地方の新しい建築のあり方として絶賛されるわけです。
基本情報
| 道の駅 ましこ
設計:マウントフジアーキテクツスタジオ (原田真宏+原田麻魚) 開業:2016年 営業時間:9:00〜18:00 定休日:毎月第2火曜日 住所:栃木県芳賀郡益子町長堤2271 MAP |
<ちょっ蔵広場>
隈研吾
道の駅ましこで朝食を食べてから今度は北上。隈研吾建築の「ちょっ蔵広場」とJR東日本の「宝積寺駅」を目指します。
クルマで1時間弱ですが、途中で今話題の宇都宮LRTと並走する区間があったり有名企業が立ち並ぶ工業団地があったり意外と楽しいドライブを楽しめます。
「ちょっ蔵広場」は宝積寺駅(ほうしゃくじ)の駅前広場で、隈研吾が「光と風が通り抜けるイメージ」で設計したもの。
籾殻を使用した独特の色合いの路面です。
古い米蔵を改築した「ちょっ蔵ホール」は地元のアマチュアバンドが練習していたり、夜にはライブが行われていたりして地域のいろんな拠点として使われているようです。
▲大谷石が使われている建物にはカフェ、それと案内所を兼ねた売店が入っています。
壁の大谷石の組み方をよく見ておいてください。
基本情報
| ちょっ蔵広場
設計:隈研吾 竣工:2006年 住所:栃木県塩谷郡高根沢町宝積寺 2416 MAP |
<宝積寺駅>
隈研吾
JR東日本の東北本線(宇都宮線)と烏山線の分岐駅である「宝積寺駅」の駅舎も隈研吾設計です。
以前訪れた時は夜間であまり良く分からなかったのですが明るい時間に宝積寺駅を見るとすごいの一言。
▲階段の天井は木材を一見ランダムに組んだように見えます。
でもちょっ蔵広場の大谷石の組み方を踏襲しているようです。
▲これは東口と西口を結ぶ自由通路。ここの天井も同じ意匠で続いています。
宝積寺駅は駅前こそ店舗も少なく閑散としていますが、非電化の烏山線の起点であり電化された宇都宮線との分岐駅といういわば交通の要衝。たぶん建築ファンの間での知名度かそれ以上に鉄道ファンにお馴染みの駅です。
そのためもあってか、この規模の駅としては珍しく「みどりの窓口」と「指定席券売機」が設けられています。
基本情報
| JR東日本 宝積寺駅
設計:隈研吾 竣工:2008年 住所:栃木県塩谷郡高根沢町宝積寺 MAP |
<廣澤美術館>
隈研吾
宝積寺の次は那須方面へ北上してさらに隈研吾建築を巡っても良いのですが、それは次の那須で建築とアートを巡るのために残しておいて、今回は2021年に開館したばかりの「廣澤美術館」へ。
宝積寺駅からクルマで1時間弱、茨城県のテーマパーク「ザ・ヒロサワ・シティ」内の一角にあります。
▲隈研吾が設計したのは美術館の建物。「石が主役」ということで、約6,000トンの自然石が建物を覆い、外観が見えないように設計されています。
周りを囲む3つの庭は作庭家の齋藤忠一とランドスケープアーキテクトの宮城俊作によるものです。
▲美術館本館の内部は木材を使った隈研吾らしいもの。
三角形の不思議な形状をしています。
廣澤美術館は「ザ・ヒロサワ・シティ」というテーマパークの一部ですが、テーマパークの入場料は不要で、展覧会の入館料だけで鑑賞することができます。
テーマパークの方はYS11やゼロ戦(レプリカ)が展示される「航空博物館」、エレキの神様「寺内タケシ記念館」、クラシックカーミュージアム、レールパーク、宇宙船が展示される「ユメノバ宇宙館」など、男の子が好きそ〜な展示がいっぱいです。
基本情報
| 廣澤美術館
設計:隈研吾 開館:2021年 開館時間:10:00〜17:00 休館日:月曜日 住所:茨城県筑西市大塚 599-1 (ザ・ヒロサワ・シティ内) MAP |
今回は宝積寺から廣澤美術館へと巡りました。廣澤美術館からなら常磐道を走って都心まで1時間半くらいで帰路も比較的楽ちんです。
宝積寺から北上して那須の隈研吾建築を巡るならこちらの記事を。
今回は1泊2日で茨城県の北部から栃木県南部で建築とアートを巡りました。
日立で日の出を見てから五浦まで北上して再び南下というややトリッキーなルートでしたが、逆に最初からまず五浦美術館を訪問して南下しながら各所で建築とアートを巡るでも良いと思います。
茨城、栃木での建築とアートを巡りの参考になればうれしいです。































