ATAMI ART GRANT 2023
静岡県のリゾート地、熱海(あたみ)の全域を使って展開されるアートイベント「ATAMI ART GRANT」。2023年も開催されています。
昨2022年はあのHOTEL ACAOや來宮神社(きのみやじんじゃ)や起雲閣(きうんかく)といった熱海の定番スポットが会場になっていて、東京からの「アタミデスバスアートツアー」を利用して巡りました。
今年2023年はACAO FOREST(旧アカオハーブ&ローズガーデン)と初の一般公開となるATAMI ART VILLAGEとが実質的なメイン会場となっているので、東京から電車と路線バスを使って熱海アートグラントの会場を巡ってみました。
電車と路線バスという安価な交通手段だけでいくつの会場を回れるのか? アート作品の紹介とともに熱海アートグラント2023の参考になれば嬉しいです。
▲アートイベント「ATAMI ART GRANT 2023」は、熱海の魅力をアートにより再発見し、目に見える形にするプロジェクト「PROJECT ATAMI」によるものです。
熱海アートグラント2023では滞在型のアーティス向けスペース「ATAMI ART VILLAGE」、海沿いを走る国道135号からも目立つ「ACAO FOREST」、熱海駅周辺の「熱海駅前」、街中に点在する「シーサイド」、熱海のパワースポット「来宮神社」の6つのエリアが会場となりアート作品が展示されています。
ATAMI ART GRANT 2023のミチシルベ
イベントのチケットは大人が3,000円。オンラインで事前に購入することもできますし、当日熱海駅前のATAMI ART GRANTインスタレーションセンターで購入することもできます。
事前にオンラインでチケットを購入しても結局このインフォメーションセンターで鑑賞パスポートと引き換えます。
インフォメーションセンターは開場が11時ですので、まずは11時までに熱海に到着するよう目指さないといけないですね。
品川から熱海まで、新幹線で30分から40分くらいですが片道4,000円以上。在来の東海道線で2時間弱ですが片道2,000円弱。今回は東海道線を使ってノンビリ向かいました。
もちろん車で向かうのもOKです。
PR
熱海駅前エリア
熱海駅で降りたらまずATAMI ART GRANTインフォメーションセンターへ向かうのですが、もうその前から作品を見ることができます。
▲熱海駅の地下通路に展示されている坂本森海(さかもと・かい)の作品です。
▲インフォメーションセンターの中にも作品が展示されています。
写真は榎倉冴香(えのくら・さえか)の作品ですが、その裏にも展示室があってトモトシ&TOMO都市美術館のインスタレーションが行われています。
この他にも全10作家の作品がエリア内7会場で展示されています。
PR
ATAMI ART VILLAGE
レジデンス型のアート施設、ATAMI ART VILLAGEはメイン会場の一つ。
一般公開されるのは初めてとなります。
ここへは熱海駅の3番バス乗り場から「ひばりヶ丘行き」の路線バスに乗って向かいます。
1時間に2本(時間帯によっては1本)しかないので時間には余裕を持って行動しましょう。また「紅葉ヶ丘」止まりのバスに乗らないよう注意。アートヴィレッジはその先です。
▲バスで熱海の山を登り「土橋」バス停で降りたら「頼朝ライン」という道を徒歩で5分ほど登るとATAMI ART VILLAGEに到着です。
緑のオブジェは熱海アートグラント2023年のもの。
ATAMI ART VILLAGEと書かれた白いのは常設されているものだと思いますが、ちゃんと作品になっています。一斗缶が良い仕事をしています。
▲アートヴィレッジの建物の裏口へ続く階段にかかるプラチェーンは土井健史(どい・たけふみ)の作品《じゃまな境界》。結界をシンボライズしているのでしょう。
この階段をジャラジャラ言わせながら登ってもよいのですが、正式なルートは階段を使わず坂道を登るものです。
▲坂道を登りきると広場になっていてカラフルな椅子とテーブルが置かれています。でもこれは今回の作品ではありません。
ATAMI ART GRANT 2023の作品はフェンス際に立つポールとそこにたなびくフラッグ、それと天辺の丸い街灯で《街の灯》です。
アーティストは「下山健太郎+奥多摩美術研究所」。
▲アートヴィレッジの建物はおそらく企業かなにかの保養所か研修施設を改装したもの。熱海や伊豆によくあるものですね。
この会場のメインはたぶんこれ。玉山拓郎(たまやま・たくろう)の《Models (Pair, 6 sets, 12 rings)》。
一見シンプルに輪が交差しているだけに見えますが、足音や流れる音楽に反応してLEDが明滅するという音と光のインスタレーションです。とっても繊細な光と音なのでこうした静かな環境でこそ体験したいです。
▲押し入れやサンルームや床下に設置されたモニターとゲームコントローラー。
宍倉志信(ししくら・しのぶ)による《子どもたちの庭》。マルチプレイゲーム作品なので、できれば2人以上で訪れて楽しんでみてください。
現代的な玩具は一種のリチュアルの装置でもあるという見立てで、それに気づくとこの場所がちょっと恐ろしくなります。
▲これは∈Y∋ の《UNATAMITLE》。
▲サラリーマン出身のアーティスト坂井存+TIARによる《重い荷物》。
ゴムチューブの彫刻作品とそれを使ったパフォーマンスで知られる作家の立体作品、それと各地でのパフォーマンス記録です。また屋外にも巨大なゴムチューブ作品が展示されています。
重い荷物を背負うというと、これから君はWeightを背負っていかなければならないと歌われるThe Beatlesからの別れの曲 “Carry That Weight” を誰もが思い浮かべますが、それと坂井存のこれはたぶん無関係です 。
▲さて、このATAMI ART VILLAFGEですが、最寄りの土橋バス停から写真のような坂道を数分かけて登らないとなりません。
また熱海駅方面へ戻るバスは1時間に2本ですから1本逃すと30分くらい待たないといけません。最初にバス停に着いたら帰りの時間をよく確認しておくことをおすすめします。
また会場には6台分の駐車場があります(無料)。車で訪問してもまず問題ないと思います。
PR
ACAO FOREST (ビーチ側)
ATAMI ART VILLAGEからいったん街中へ戻りランチをしてから再び路線バスでACAO FORESTへ!
▲クリスマス仕様になっているACAO FOREST(アカオフォレスト)。
以前は「アカオハーブ&ローズガーデン」という名称で親しまれていました。海沿いを走る国道135号でも良い目印ですから伊豆方面へドライブして目にした方も多いでしょう。また隈研吾設計の「COEDA HOUSE(コエダハウス)」や相模湾に飛び出しそうな「空飛ぶブランコ」でも有名です。
このACAO FOREST会場では海沿いのエリアとACAO FORESTのガーデンエリアとに別れているのですが、ガーデンエリアの方は有料になっていて通常の入場料が4,000円のところ、ATAMI ART GRANTのパスポートを提示すれば2,000円で入場できます。
まずは無料で見られる海沿いのビーチ側のエリアの作品を紹介します。
▲一見工事中なのかジャングルジムかのように見えるのは台湾出身のアーティストWang I Chaiの《咲く》です。
これは階段代わりになっていて、これを登ると会場の一つである「NOT A GALLERY」です。
▲NOT A GALLERYというギャラリースペース。
芝生の上に道を示すかのようにキューブが置かれていますが、これは作品ではないみたいです。
このNOT A GALLERYではATAMI ART GRANTのパスポート販売所も兼ねています。駅ではなく直接ここに来てパスポートを購入し、ACAO FORESTからアートグラント巡りを始めることができます。
▲NOT A GALLERYの内部です。
突き当りに ”#newmoon” というハッシュタグが見えますが松田将英(まつだ・しょうえい)の作品です。
他にもテキストによるハッシュタグ作品や映像などのメディアを用いた作品が展示されています。
▲アニメーションの世界を描くことでいま注目のアーティスト/アニメーターの米澤柊(よねざわ・しゅう)の《台風のあと》。
松田将英と米澤柊だけをまとめて見られる贅沢な展示空間です。
▲人の家の駐車場に勝手に建っているようなこれも作品です。
SCAN THE WORLDによる《SCAN THE WORD [STAGE: DAY & NIGHT]》です。
世界的な観光地である熱海の街の、昼と夜をスキャンした結果のようです。
左の面が昼間の熱海の街、右が夜の熱海の街。
PR
ACAO FOREST (ガーデン側)
次に入場料2,000円を支払ってかつてのハーブ&ローズガーデンへ。
海沿いの山の斜面を使った東京ドーム13個分の広い敷地を誇るガーデン内に作品が点在しています。
入園したらそのまま歩いてCOEDA HOUSEのある頂上に作品を見ながら向かうことも可能と言えば可能ですがまったくオススメできません。
素直に10分ごとに出発する園内シャトルバスで頂上まで行き、下りながら見て回るのが良いです。疲れません。
▲頂上近くにある曽我浅間神社には土井健史の《じゃまな結界》。さっきATMI ART VILLAGEで見たのと同じアーティスト、同じ作品ですね。
でもこちらの方がさらに大掛かりです。
この作品のさらに奥に市川平(いちかわ・たいら)の《バオバブ プランテーション》という作品があります。山道を上り下りしながら10分以上、往復で30分はかかるそうです。暗くなると足元が危ないので15時で閉鎖されます。
時間と体力に余裕にある方だけが足を運ぶのが良いでしょう。私たちは時間切れで断念しました。
▲和風庭園の「天翔」。
中央の世界最大の盆栽「鳳凰の松」の付近ではLiu Yiによる《Birds Radio – Atami project》として世界中の鳥のさえずりを聞くことができます。
その日本庭園の向こうに見えるのがCOEDA HOUSE。そのさらに向こうには空飛ぶブランコ。
世界中から人々が写真を撮りに来ている場所です。
▲COEDA HOUSEのある頂上付近から歩いて入園口へ戻りますが、途中で多くの作品を見ることができます。
エヴァーガーデンの空中にあるのは渡邉顕人(わたねべ・けんと)の《共振する渓巣》。ドローンを使い、谷を抜ける風を受けるよう放射状に巨大な蜘蛛の巣が架構されています。
▲蜘蛛の巣の真ん中に絡め取られたような繭。
夕暮れ時には光を放つそうです。
▲道路を挟んでエヴァーガーデンの向かい、山側にあるのがシェードガーデン。
ここにあるのは松田将英の《#powerspot》。
▲一種のバズワードでもあるパワースポット(powerspot)ですが、ここでは照明作品として展示されています。
Power Plantからの繋がりでのpowerspot。皮肉を効かせた作品です。
▲松田将英から少し道を下ると市原えつこの《ディストピアの秘境・熱海支部》です。
大阪・関西万博の日本館プロジェクトにも参画するなどこのところ絶好調な自称・下級国民のアーティストによる、皮肉どころか悪意タップリな作品。もしかしたらこのエリアで最重要な作品ではないでしょうか。
地面には小石がデビルスター(逆五芒星)型に置かれていますから間違って悪霊を呼び出したりしないよう気をつけたいです。
▲かつては新婚旅行先として人気のあった熱海をディストピアに見立ててのポスター。まっ結婚自体がディストピアの始まりと言う人もいますからね。
市原えつこ自身のマイブームが ”ディストピア” のようで、東京都現代美術館のMOTアニュアル2023展に出品している新作のテーマもディストピアです。
▲愛をはぐくみ未来のミュージアム HIHOKAN。
あのエロスのパビリオン「熱海秘宝館」もディストピアな世界ではこうなっちゃうんですね。
▲さらに下ると道端にあるボックス。
vugの《gardman》です。(スペルミスではなく本当にgardmanです)
▲後ろのドアを開けて中に入れます。
靴ごとサンダルを履けばOK。
▲その先のトイレにも作品が。
これは加茂昂(かも・あきら)の《芽吹く絵画#1》。
さすがにこれは考えすぎかなぁという作品です。
▲ハーブガーデン全体を使った中村岳(なかむら・たけし)の《遡及空間(そきゅうくうかん)》。
彫刻ではなく空中をキャンバスに見立てて描いた絵のようです。
▲最後はハーブ工房内の柱に描かれた作品。
BYNAMの《Portrait》。
今回はここで時間切れ。シーサイドエリアや来宮神社エリアを巡ることはできませんでした。
PR
鑑賞時間と移動方法
今回の各エリアへの移動時間と鑑賞時間は次のとおりでした。
ATAMI ART VILLAGE
移動:熱海駅から往復1時間弱
鑑賞:約1時間半
ACAO FOREST
移動:熱海駅から往復30分ちょっと
鑑賞:ビーチ側 30分、ガーデン側1時間半
スタートが11時ですから途中でお昼を食べたりしていると、この2か所だけで日が暮れてしまいます。
ただ巡る順番を逆にすれば15時過ぎには両方を見てから熱海市内に戻って来られるので、それからシーサイドエリアか来宮神社エリアを見ることもできるでしょう。ただし全部巡るのは厳しいと思います。
路線バスを利用して安く効率的に巡るなら、ACAO FOREST〜ATAMI ART VILLAGE〜シーサイドエリアまたは来宮神社エリアが良いと思います。熱海を走る路線バスはSUICAやPASMOなど交通系ICカードが使えますし、800円の「熱海1日券」を購入して「湯~遊~バス」を使えばさらに効率的に巡れます。
▲夜、熱海駅前で熱海アートグラントの感想を語り合いながら帰りの電車の時間を待つカップル。でも相当に疲れていると思います。
全部の会場を巡って全作品をじっくり見るなら車で訪問する方が疲労度の面で楽かもしれません。
このATAMI ART GRANTは新進若手の新作を中心に多くのアーティストと作品に触れられる良い機会です。11月17日までと残り会期も短いですが、秋のアートシーズンの最後にちょっとした小旅行も兼ねたアート巡りとして最適だと思います。
イベント基本情報
ATAMI ART GRANT 2023 ●巡-Voyage ATAMI●
11:00 〜 18:00 鑑賞パスポート 大人 3,000円、学生 2,500円 (一部、無料で鑑賞できる場所もあり) アクセス:JR東海 東海道新幹線熱海駅、東海道本線/伊東線 熱海駅 |
あわせて行きたい伊豆・箱根の建築とアート
伊豆・箱根には大規模な美術館からちょっとしたシングルアーティストの美術館、ギャラリーまで多くのアートスポットが点在しています。そうした中からいくつか記事をピックアップしました。伊豆・箱根の建築とアートを巡る旅の参考にどうぞ。
PR