THE TOKYO TOILET
渋谷区内の公衆トイレを著名なクリエーターのデザインで順次リニューアルしていく「THE TOKYO TOILET 」プロジェクト。これは日本財団が2020年より始めた取り組みで、渋谷区内17か所に斬新で清潔な公衆トイレが設置されています。
サイドプロジェクトとしてドイツの世界的な映画監督ヴィム・ヴェンダースがメガホンを取った映画「Perfect Days」が制作され、その撮影も実際に渋谷区内のトイレを舞台に行われました。そしてこの映画の主演を務めた役所広司が第76回カンヌ映画祭で日本人では2人目となる主演男優賞を受賞しました。
トイレの施工を担当したのが大和ハウスという縁もあったのでしょう、ダイワマンこと役所広司が主演なんですね。を受賞しました。
「Perfect Days」は2023年12月26日(金)からTOHOシネマズ系列で公開されています。待望のという言葉がこれほど似合う映画もないでしょう、公開を待ち望んでいた人も多いと思います。
そんなTHE TOKYO TOILETで新築されたトイレを紹介します。どれも大御所の建築家から新新進気鋭のデザイナーの手になるもので、建築好き、アート好きにとっても注目です。
PR著名クリエイターデザイン
2020年8月にリニューアルした富ヶ谷と代々木の坂茂による透明なトイレは有名ですね。
その後、片山正通による恵比寿公園、田村奈穂の東三丁目公衆トイレ、槇文彦の恵比寿東公園=通称タコ公園、坂倉竹之助の西原一丁目公園、安藤忠雄の神宮通り公園、ファッションデザイナーNIGO®による神宮前公衆トイレと順次完成し、2023年3月で全17か所のトイレが完成しました。
代々木深町小公園
このプロジェクトで最も有名で、最も個性的なトイレが坂茂の透明なトイレです。
その名も「ザ トウメイ トウキョウ トイレット」です。
▲こんなに透明なトイレなんて使えない!と思いますよね。それが違うんです。
左端の誰でもトイレを見てください。不透明です。こんな感じで中に入って鍵をかけると透明なガラスが不透明になるのです。
このトイレのガラス壁は、通常は通電させることで透明な状態を保っており、鍵を閉めると通電が解除されて不透明になる仕様なのです。
このシステム、オフィスの会議室などで使用されているのは知っていましたが、まさかトイレでこのガラスを使うなんて、非常に驚きました。
ただ、実は2023年7月現在、左端の誰でもトイレのガラスに不具合が生じており、常に不透明なままで、使用中止になっていました。
気温の低い期間は、不透明に変わるのに時間がかかるため常に不透明。透明から不透明に変化するのは5月中旬から10月中旬までの期間限定になりました。
はるのおがわ コミュニティパーク
こちらも坂茂設計の「ザ トウメイ トウキョウ トイレット」です。使われているガラスの色が違います。
また、ここのトイレと代々木深町小公園のトイレは徒歩で3分ほどの距離です。
こちらのトイレも代々木深町公園同様に10月中旬から5月中旬までは常に不透明です。
代々木八幡
代々木八幡宮の入り口にある伊東豊雄設計のトイレは「Three Mushrooms」です。
3つのキノコ型のトイレが並んでいます。丸いタイルがグラデーションで貼られていて、足元はアールを描いています。
代々木八幡宮の鳥居のそばの緑豊かな場所なので、キノコ型で曲線的な自然に融和するデザインになっています。
夜になると屋根に照明が灯りランタンのような温かみのあるトイレになります。
▲トイレの脇の階段を上がり代々木八幡宮の境内に入るとPerfect Daysの主人公、平山が毎日ランチを食べ木漏れ日の写真を撮るベンチもありますよ。
神宮通公園
神宮通公園ののトイレは世界的な建築家、安藤忠雄の手になるもの。
▲安藤忠雄の「あまやどり」神宮通公園トイレ。
明治通り沿い、隣は宮下パークというシチュエーションですからすでに利用したことがある人も多いのではないでしょうか。
▲内部はこのように開放的で明るく公衆トイレのイメージを覆すもの。
神宮通公園の場所は原宿と渋谷の中間あたり、明治通り沿いです。隣は宮下パークです。
THE TOKYO TOILETでは毎日2回の清掃が行われ、常に清潔さが保たれています。「Perfect Days」はこのトイレを清掃する平山という人物が主人公です。
ちなみに映画が撮影されたのは2022年。ヴィム・ヴェンダースが敬愛する小津安二郎の遺作「秋刀魚の味」からちょうど60年に経った年で、同じように東京を舞台にしています。さらに主人公の名前はどちらも平山。もちろんすべてヴェンダースから小津へのリスペクトです。
恵比寿東公園
代官山のヒルサイドテラスや千駄ヶ谷の東京体育館、NYのワールドトレードセンター跡地に建設された4WTCビルなど様々な建築を手掛けている大御所の建築家、槇文彦設計のトイレです。
槇文彦は建築家のノーベル賞と言われるプリツカー賞を1993年に受賞しています
▲恵比寿東公園=通称タコ公園のイカトイレはミニ代官山ヒルズサイドテラスともいうようなデザイン。
この公園は恵比寿駅から徒歩5分。駒沢通りを渋谷橋の方に行って古川の手間を右に入ったところの川沿いの公園が恵比寿東公園です。
東三丁目公衆トイレ
恵比寿東公園からもすぐ近く、東三丁目のトイレはプロダクトデザイナーの田村奈穂がデザインを担当しました。
▲線路脇の狭小スペースを上手に利用した目立つトイレです。
交通量の少ない道路沿いなのでタクシーなど自動車を運転する人の利用も目立ちます。
真っ赤でシャープな作りがとても鮮烈で斬新なデザインが目立ちますが、狭小空間の立地を生かした効率の良いデザインも見逃せません。
ここは恵比寿駅から徒歩3分。駒沢通りを渋谷橋の方へ向かい、恵比寿一丁目信号を左に入ったところにあります。
恵比寿公園
ここは南青山のLEXUSなども手掛けるインテリアデザイナーの片山正通(かたやま・まさみち)デザインのトイレです。
▲重厚なコンクリートの壁がそびえるトイレです、
恵比寿駅から徒歩5分。駒沢通りの恵比寿南交差点を北側に曲がった先にあります。
PR鍋島松濤公園
松濤美術館から程近い場所にある鍋島松濤公園にある隈研吾設計のトイレです。
「森のコミチ」と題されたトイレは集落のようなトイレの村というコンセプトです。
ランダムな角度の耳付きの杉板ルーバーで覆われた個室は公園という立地から何か遊具のように見えます。
時間が経ってこの杉板ルーバーがどんな風に経年変化していくのでしょうか。
階段がありますが、だれでもトイレは階段下にあるので車椅子でも利用可能です。
▲THE TOKYO TOILETプロジェクトのトイレには共通のサインデザインが使われています。▲
一番上のサインは何?と思いましたが、幼児用トイレマークです。
中にはすごく低くて小さい便器が設置されていました。他に手洗いと男性用小便器だけなので、女性マークがついていますが、大人の女性はあの低い便座での利用はかなり厳しいと思います。
▲個室の中には各々違うデザインの木による飾りが施されています。
鍋島松濤公園は渋谷区立松濤美術館の近く。旧東急百貨店のところから文化村通りに入り2つ目の信号を斜め右に入った突き当りです。松濤美術館を訪問する機会があったら併せて立ち寄ってみたいですね。
恵比寿駅西口
恵比寿駅西口、恵比寿像の横にあるトイレです。駅の目の前なので利用したことがある人も多いでしょう。ここは佐藤可士和(さとう・かしわ)がデザインしました。
▲地上から浮いているようにも見える不思議な建物です。
▲夜のトイレの様子です。使用中だと光がつくのでわかりやすいです。▲
▲中の照明の光が漏れて夜の方がきれいに見えます。
このトイレは恵比寿駅西口。西口を出て駒沢通りに出るところ、恵比寿像や交番のある場所です。
神宮前公衆トイレ
原宿にも近い明治通り沿いにひっそりと建っている「神宮前公衆トイレ」。
ここは日本のストリートカルチャーの体現者としてファッションブランドを展開したり多方面で活躍するデザイナーNIGO®がデザインしたものです。
▲都会の真ん中にひっそり佇む一軒家をイメージしたというトイレです。
外観はレトロポップですが他のTOILET PROJECT同様、内部は最新のスタイリッシュなものです。
神宮前公衆トイレの場所は明治通りの原宿警察署の少し千駄ヶ谷寄りです。
▲明治通りという東京でも交通量の多い道路の、しかも渋谷〜新宿間という最混雑エリアにあり、しかも駐車しやすい位置なのでタクシーがひっきりなしに来ては用を足しています。
THE TOKYO TOILETの中では恵比寿駅前と並んで利用者数が多いトイレではないでしょうか。
西原一丁目公園トイレ
幡ヶ谷の甲州街道にも近い公園に建つ「西原一丁目公園トイレ」。
ここのデザインは建築家の坂倉竹之助。父は建築家の坂倉準三、祖父は西村伊作、義父はホテルニュージャパン火災の横井英樹。息子たちはラッパーのZEEBRA(ジブラ)とSPHERE(スフィア)。「Perfect Days」のセリフとは正反対で世界は繋がっているんだと思わずにいられません。
▲気軽に立ち寄れる明るい雰囲気のトイレを目指したのだそうです。
七号通り公園トイレ
「西原一丁目公園トイレ」とは甲州街道を挟んでほぼ反対側、幡ヶ谷駅からも近いのが「七号通り公園トイレ」。
デザイン担当はSME〜TBWA博報堂という経歴を持つクリエイティブディレクターの佐藤カズー。
▲地面も白ければトイレの建物も白。おまけに半球体。
さらに全ての動作を音声で制御できるボイスコマンド式なのです。ただ今は問題が発生していてボイス操作はできないようです。
「七号通り」という聞き慣れない名称の公園ですがそれは幡ヶ谷のマイナーな道路名で、実はこの公園は「水道道路」沿いにあります。新宿から水道道路を車で走れば幡ヶ谷の辺りで否が応でもこの特徴的なトイレが目に入るでしょう。
PR西参道公衆トイレ
渋谷区代々木、西参道の「西参道公衆トイレ」は藤本壮介の設計です。
THE TOKYO TOILETの最後、17番目のトイレとして2023年3月に完成しました。
▲遠目には絶対にトイレとは思わない有機的な造形のデザインです。
▲内部も曲線を多用したものになっています。
そしてトイレらしくないすべてホワイトの外装に内装です。
西参道公衆トイレの場所は西参道沿い、西参道と甲州街道の交わる西参道口交差点のすぐ近くです。
裏参道公衆トイレ
首都高速の下に建つのは、銅製の「蓑甲(みのこ)屋根」をはじめとする日本の伝統的な建築の引用で構成されたトイレです。
外国人が持つ日本的な建築のイメージだなと感じませんか。
それもそのはずオーストラリア出身のインダストリアルデザイナーマーク・ニューソンが手がけたトイレなのです。
太陽の光を浴びて輝く銅の屋根を見たかったのですが、あいにくの曇天でした。
後ろ半分は雨が多く当たるようで、すでに緑青が出ていました。
茗荷谷にある重要文化財の邸宅、外壁が全て銅の銅御殿を思い出しました。
広尾東公園
広尾ガーデンヒルズにも近い広尾東公園のトイレ。デザインはアートディレクターの後智仁/うしろともひとです。
「人はみんな違うという意味において同じである」という思いを表現するトイレをつくりたいと思いから発想を得たトイレのタイトルは、「モニュメントのようになれば」という意味を込めた「Monumentum」。
▲男女は分かれておらず、バリアフリートイレが2つです。
スロープが整備され、車椅子でもアクセスしやすくなりました。
▲夜の様子です。このトイレも夜の方がいい感じです。
▲このトイレの最大の見せ場はこの背面の大型モニターです。
モニターにはライティングがパターン表示されています。パターンは世界人口と同程度の78億5000~79億通りのため実質的に2度とおなじ状態は見られないらしいです。1パターン1秒としても全パターンを表示するには10万年近くかかりますから。
▲夜になるとライトの色が変わり、めちゃくちゃよくわかります。ちょっと遠目からは一体何?っていう光を発しています。
横から見たらマトリックスみたいです。
広尾東公園は外苑西通りから広尾ガーデンヒルズへ上がる坂道の途中です。
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千駄ヶ谷駅前トイレ
このトイレは渋谷区内ではありますが、一連のTHE TOKYO TOILETのプロジェクトではありません。
昭和54年竣工の和式で古いトイレを、「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」開催に向けてリニューアルするにあたり渋谷区がデザインの公募を行いました。
▲その結果、設計を谷尻誠氏・吉田愛氏主宰SUPPOSE DESIGN OFFICEのデザインが選出されたのがこのトイレです。▲
大きなコンクリート打ち放しの箱が宙に浮いているようなデザインです。
外観の硬質なコンクリートに対して中は温かみのある木で覆われた個室に真鍮の照明などホテルのような設です。
▲THE TOKYO TOILETの隈研吾、佐藤可士和のトイレは男女別になっていませんが、ここは一応左右にスペースが別れてはいるものの中央にある洗面は共通という構成です。
さて、渋谷区のTHE TOKYO TOILET プロジェクトのトイレをいくつか紹介しました。
映画「Perfect Days」の話題もあって再び注目が集まりそうです。
トイレのイメージを覆す17か所のトイレ。このプロジェクトに刺激をうけ、日本各地でも同じようなコンセプトでトイレの改築が進んでいるようです。まずはその先駆となったトイレを訪れてみてはどうでしょうか。
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