直島の本村地区に展開されている「家プロジェクト」は空き家を改修した空間に7人のアーティストによる7つのアート作品を見ることができます。
これら7つの作品は全てアーティストが直島に滞在して、地域住民と触れ合いながら制作した直島ならではの作品ばかりです。
ベネッセアートサイト直島の7つの家プロジェクトとANDO MUSEUMをレポートします。
PR角屋/宮島達男
1998年に公開された角屋は、直島の家プロジェクトの中で一番最初に完成しました。漆喰仕上げ、焼板、本瓦を使い元々の姿に復元されたこの民家はなんと築200年です。それだけで、この民家が直島のこの地で過ごしてきた時間の流れを意識せずにはいられません。
「Sea of Time 98’」
1998年宮島達男は、当時5歳から95歳までの125名の島民に、デジタルカウンターのスピードを自分の思い思いの速度に設定してもらいました。125種類のさまざまなスピードで明滅するデジタルカウンターが角屋のメインスペースで静かに時を刻んでいます。
20年後の節目となった2018年に再びこの125名に集まってもらい、スピードの再設定を行いました。残念ながら亡くなられた方はその親族が、または新たに島民になった方にも参加してもらい、カウンターが再生しました。
「Naoshima’s Counter Window」
築200年の民家の窓に、一定のスピードを保ったまま、静かに変化し続けるデジタルカウンターが設置されています。数字の隙間から垣間見える島民の営みと悠久の時を経て再生した民家の歴史が交差します。
「Changing Landscape」
見忘れ注意の蔵の中の作品です。(写真撮り忘れました。)江戸時代後期の画家岡本豊彦の山水画が描かれた軸装に宮島達男がデジタルカウンターを重ねて描いた作品です。この家が経てきた時間と軸装が経てきた時間に、宮島達男が更に時間を重ねた作品が、この「Changing Landscape」であり、角屋です。
PR護王神社/杉本博司
杉本博司といえば、劇場や海景の写真作品だけでなく、建築そのものが作品である小田原の江之浦測候所などその表現は多岐にわたりますが、作品のコンセプトは全て共通していて「時間」です。
直島にある護王神社は、江戸時代から続く神社を杉本博司が伊勢神宮をはじめとする初期の神社建築様式に倣って杉本博司流に再建しました。
拝殿に鎮座する巨石は24トン!岡山から遥々運んできたそうです。▼
一見普通の神社のように見えるのですが、よくみてみると本殿へ続く階段は光を放つ硝子でできているのがわかります。その階段は地上で終わらず、地下へと続いているのです。▼
この美しく輝く硝子の階段が続く地下の石室も見学がすることができます。地下の石室の見学の際には懐中電灯の貸出があります。
懐中電灯を片手に人とはすれ違えない幅の真っ暗な闇の通路(本記事トップ画像)を通り抜けると、そこには地上から漏れ出る光を受けて本殿からの硝子の階段が姿を現します。▼
近年再建された新しい神社なのに、なぜか積み重ねられた時間の層を感じるのは、古代から存在する素材だけでできているからかもしれません。
PR碁会所/須田悦弘
碁会所というのは、かつてこの場所が碁を打つために島の人々が集まっていたことに由来しています。ここの作家はベネッセハウスミュージアムのコンクリートの目地に生える「雑草」やベネッセハウスパークの通路に展示されている「バラ」を制作した須田悦弘です。
建物のちょうど真ん中に入り口が設けられており、そこを通って中に入ると、左右対称の二つの畳の間があります。一つの部屋には、お馴染みの須田悦弘作品、木を彫って作った精巧な椿の花が畳の上に点在しています。もう一つの部屋には何も見当たりません。
しかし、え?この椿だけ?と言って踵を返してはいけません。二つの部屋にちゃんと作品があるので注意深く鑑賞してください。
また、冬に訪れると庭に植えられた本物の五色椿が咲いています。木彫の椿と本物の椿の対比が見られてとても面白いのです。ちなみに、冬でなくても碁会所では、本物と木彫作品の対比展示は観られますよ。
はいしゃ/大竹伸朗
その名の通り、ここはかつて歯科医院であった建物です。1階に医院、2階が住居スペースだった建物を丸ごと作品化しました。丸ごと作品化したのは、宮浦港近くの直島銭湯「I♥︎︎湯」も制作した大竹伸朗です。
外観はもちろん、建物への階段やその壁、建物内部の床壁天井全てが大竹伸朗の手によって巨大な立体作品「舌上夢/ボッコン覗」となりました。
今回ベネッセシャトルバスのドライバーさんに聞いたのですが、島には現在歯医者さんが1軒しかないそうです。この歯医者さんも実はとても貴重な医院だったんですね。
石橋/千住博
2001年まで個人邸として使われていた石橋家は、明治時代から製塩業を営んでいました。製塩業は昔から島民の暮らしを支える重要な産業の一つです。このプロジェクトは、千住博の作品とその空間そのもの、ひいては直島の暮らしと歴史を遡るこの石橋家の家屋再建そのものに注目して鑑賞したい場所です。
蔵の中では、千住博の代表作である滝の作品「ザ・フォールズ」を自然光の中で鑑賞することができます。また、母家と庭が一体化した「空の庭」も千住博の作品です。
PRきんざ/内藤礼
築百数十年の小さな家屋の内部全てが、内藤礼の作品です。屋根や柱などの構造はそのままに伝統的な技術を使いつつ再建されました。豊島にある内藤礼の代表作「母型」とはまた違った内藤礼の世界観に浸れる場所です。
鑑賞前、15分って結構長くない?って思いましたが、あっという間でした。
きんざ作品鑑賞の注意点
鑑賞時間は15分間。1人で入室して1人で鑑賞します。webからの完全予約制。家プロジェクトとは別に520円料金がかかります。木金土日のみ開館。
時間は3月1日 ~ 9月30日=10:30 ~ 13:00 / 14:30 ~ 16:30、10月1日 ~ 2月末日=10:00 ~ 13:00 / 14:30 ~ 16:00
場所は碁会所の隣です。
南寺/ジェームズ・タレル
南寺というのは、この場所にかつてあったお寺の通称です。安藤忠雄設計の木造建築内にジェームズ・タレルの1999年の作品「Backside of the Moon」があります。日本で常時タレルの作品が鑑賞できるようになるなんて本当に嬉しい限りです。
ジェームズ・タレルの作品を一度でもみたことある人ならお分かりの通り、鑑賞するというよりは体験する作品です。
タレル作品鑑賞の注意点
webに「混雑が予想される時期(3月〜11月)、「南寺」は鑑賞人数が限られているため、混雑した場合は、本村ラウンジ&アーカイブにて整理券の配付をいたします。」とありますが、全く混んでいない時でも整理券の配布があります。
もらった整理券の指定時間の10分前に南寺に行く必要があります。そこで、説明を聞いて、いざ体験です。ご存知ない方のために書くと、真っ暗な漆黒の闇の中に入って作品を鑑賞します。
しばらく闇の中にいるとだんだん目が慣れてきて、タレルの作品が見えてきます。なんとも不思議な体験をすることになりますので、是非鑑賞することをお勧めします。
私自身最初にこの作品を鑑賞したのは直島ではないのですが、そのときの衝撃は今でも忘れません。
この作品は撮影禁止です。
地中美術館にあるジェームズ・タレル作品とナイトプログラムも必見です。詳細はこちら。▼
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ANDO MUSEUM/安藤忠雄
7つの家プロジェクトとは別に安藤忠雄の設計による安藤忠雄のミュージアム、 ANDO MUSEUMも本村エリアにあります。場所は南寺のすぐ近くです。南寺とANDO MUSEUMのちょうど間にある公衆トイレも安藤忠雄設計なので、スルーしないでチェックしましょう。
安藤忠雄設計のトイレ▼
このミュージアムの建物は築100年超えの木造建築です。外観は完全に木造の民家ですが、中に入ってびっくり、そこには外観からは想像できない安藤忠雄らしいコンクリート打放しの空間が広がります。
天気の良い日に訪問できたので、コンクリートの壁に差し込む光が美しく、元は民家だったので小規模な、安藤忠雄の世界が凝縮した美術館です。
展示されているのは、安藤忠雄とベネッセアートサイト直島の協働の歴史と記録です。とても興味深く拝見しました。
家プロジェクト鑑賞時間の目安
7つの家プロジェクトで、移動時間を含めて1時間から1時間半くらいはかかります。さらにANDO MUSEUMに20−30分かかるので、全体で2時間くらいが目安です。
家プロジェクト基本情報
10:00~16:30 (南寺」最終入館 16:15) 開館カレンダー 月休(祝日の場合開館、翌日休)
鑑賞料金:共通チケット(きんざを除く6軒)1,050円 1軒だけ420円(きんざ除く)