チリ出身で今はニューヨークで活躍するアーティスト、アルフレド・ジャーの個展「終³ (THE END³)」が六本木のギャラリーSCAI PIRAMIDE(スカイ・ピラミデ)で開催されています。
ジャーは芸術を通じて人類の平和に貢献した作家に対して贈られるヒロシマ賞の第11回の受賞者で、本来は2020年にその受賞記念展が開催されるはずでした。パンデミックのため延期されていたその展覧会は2023年夏になってようやく広島で開催されていて、SCAI PIRAMIDEでの展覧会はその受賞記念展に合わせてのものとなります。
「終³」展は三つの章で構成され、それぞれがヒューマニティー、写真、そして私たちの知る世界の終焉として描かれています。
感染症の蔓延や戦争そして異常気象など21世紀なのにこんなことがと思うような事柄が立て続けに起きている今、ジャーのようなアーティストが発する終末の予兆を重く受け止めたいものです。
アルフレド・ジャー(Alfredo Jaar)の日本語表記は ”アルフレッド・ジャー”、”アルフレド・ジャー”などの表記があるようで混乱しています。とりあえず建築とアートを巡るでは ”アルフレド・ジャー” で統一して記載します。
PR「終³ (THE END³)」
SCAI PIRAMIDEの「終³」展を展示順に紹介します。
Silent Flash
SCAI PIRAMIDEに入って真っ先に目にするのが《Silent Flash》。
2023年制作の新作です。
▲何かの建築物を上空から捉えた写真が並んでいます。
▲実はこれ、広島の原爆ドームの上空にドローンを飛ばて撮影したものです。
原爆ドームの上空はドローン飛行禁止ですが特別に許可を得てドローンの飛行と写真撮影を行っています。
▲ドローンは原爆ドーム上空から高度を下げ、最後の瞬間に写真は真っ白に。
1945年8月6日朝を象徴的に表現したインスタレーションです。
原爆の惨劇はもちろん、その後人類が背負い続けている滅亡への恐怖も表現していて、「終³」展を構成するにふさわしい作品です。
森山大道
続いて展示室いっぱいを使って展開されているのが森山大道とのコラボレーション。
▲森山大道の初期の代表作「写真よさようなら」の作品が暗室を模した店内に展示されています。
▲暗室の中央で天井から吊り下げられているのはアルフレド・ジャーが森山大道へのオマージュとして1988年に制作した彫刻作品《Bye Bye Photography》。
ジャーが初めてデジタルカメラを購入した日に制作された作品で、アナログ写真からデジタル写真へ移行することで消えていく暗室や現像といった写真文化の一部を象徴するものです。
The End of The World
そして最後の作品は「The End of the World」。
▲展示室中央に置かれた台座に鎮座しガラスケースに覆われた小さな作品です。
▲微妙に色合いが異なる10種類の鉱物でできた立方体。
こうした鉱物資源を巡って国家や部族間で紛争が発生し、過酷な児童労働で少年少女たちの未来が奪われ、精錬の過程で環境破壊を引き起こしているのです。いわば地球のネガティブな面を象徴しているものの一つとも言えます。
この作品はこの立方体と使用されている各鉱物に関するエッセイ(テキスト)から成っています。
会場にはエッセイを読むためのQRコードが掲示されていますから、テキストを読みながらの鑑賞をおすすめします。
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展覧会以外の作品
SCAI PIRAMIDEではアルフレド・ジャーの他の作品も展示・販売しています。
▲ ”Teach Us to Outgrow Our Madness” が刻まれた作品もそうです。
これはノーベル賞作家、大江健三郎の中編集『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』の英語タイトルから引用したもので、売上の一部はチャリティに寄付されます。
“This is not America”をニューヨークのタイムズスクエアにLED表示したジャーの代表作(の写真)なども展示されています。
展覧会のポイントや写真撮影
「終³」では写真も動画も撮影可能です。
もちろん、フラッシュや三脚、自撮り棒などはNGです。
原爆ドームで始まり鉱物資源を巡る世界の現状を告発して終わるという社会性のあるメッセージを強く含む展覧会です。
SCAIピラミデは木金土が開廊日ですが「終³」展は会期が長いので夏休みなど使ってぜひ訪問してみてください。好評のため会期も10月14日(土)まで、2週間延長されています。
基本情報
「終³」
12:00 – 18:00 休廊日:日・月・火・水・祝日(8/10〜8/20は夏季休暇) 入場無料、予約不要 SCAI PIRAMIDE 港区六本木6-6-9 ピラミデビル3F MAP |