国立天文台三鷹キャンパス
三鷹へ建築巡りに行ったので、国立天文台三鷹キャンパスも見学してきました。
天文台というと科学の最前線で膨大な予算をかけたビッグプロジェクトの舞台。そんなイメージもありますが、ここ国立天文台には日本の近代天文学の貴重な観測機器やそれらを格納する施設などが保存され、誰でも無料で見学できるのです。
しかも、登録有形文化財(建造物)に指定されている施設も多数あって、天文ファンだけでなく建築好きにとっても見逃せない場所なのです。
▲国立天文台表門(正門)。
実はこの門と青い守衛所(門衛所)は国の登録有形文化財(建造物)に指定されています。訪問の初っ端から文化財ということです。
JR武蔵境の駅や京王線調布駅からバスが利用できて、その名も「天文台前」というバス停で降りれば目の前が国立天文台正門です。
料金は無料、予約も少人数なら不要、しかも平日も週末も見学可能です。
正門から入ったら見学ルートに従い、まずは正門すぐ近くの「第一赤道儀室」へ。
Advertisement第一赤道儀室
赤道儀室というのは赤道儀に載った望遠鏡を設置しているから。第一というのは国立天文台三鷹キャンパスで最も古い観測用建物だからです。
▲なんか鉄人28号みたいな外観の「第一赤道儀室」。
1921年(大正10年)完成の鉄筋コンクリート2階建て。
国の登録有形文化財(建造物)に指定されています。
▲ドーム内には口径20cmの屈折式望遠鏡が設置され、ここでは主に太陽黒点の観測を行っています。
巨大な望遠鏡の操作は重りを使った方式、ドームの回転や観測窓の開閉は手動です。
つまり電気がなくても観測ができるのですが、さらにすごいのは今でも動かせること。
大赤道儀室(天文台歴史館)
続いて今は「天文台歴史館」として使用されている「大赤道儀室」。
第一赤道儀室には口径20cmの望遠鏡がありましたが、大の方にはもっと大きな望遠鏡があるのでしょう。
▲大きく見えますし実際大きいのですが、これも鉄筋コンクリート2階建て。でも上部に乗っているドームは造船所の技師の支援を得て作られたものだそうです。そう聞くとますます内部の様子が楽しみです。
1926年(大正15年)に完成し1998年まで実際の観測に使用され続け、2001年からは天文台歴史館として一般公開されています。
ここも国の登録有形文化財(建造物)に指定されています。
▲口径65cm、円筒の長さが10mにもなる巨大な屈折式望遠鏡とそれをすっぽり包み込む巨大なドームはただ圧巻。
開閉部などは造船の知見が応用されたのでしょうか。
天文歴史館というだけあって、ドーム内には様々な天文関係の資料が展示されています。
▲国立天文台の歴史などを紹介するパネルや様々な資料が展示されています。
床の赤い部分は円形になっていて、現役時は望遠鏡と一緒に回転や上下したのだそうです。
その仕組みは天文歴史館の1階で見ることができます。
▲天体観測に望遠鏡を使用したのは400年前のガリレオ・ガリレイに遡るのですが、彼が製作した100本ほどの望遠鏡のうち現存する2本を復元したものが展示されています。
天体観測は太古の昔から行われてきましたが、近代的な観測はここから始まったのですね。
▲これは現在確認できる明治期最古の望遠鏡で1875年製造のイギリス製。
ずっと麻布台(麻布飯倉)の東京天文台で使われたいらしいです。
▲「空襲で焼け残ったレンズ」。
やはり麻布飯倉の東京天文台の観測ドームに設置されていたドイツ製の18cm屈折式望遠鏡のレンズです。
1945年5月の東京大空襲、通称 ”山の手大空襲” で観測ドームも望遠鏡でも焼失したのですが、焼け跡からこのレンズだけが回収され民間で保存されていたものです。
▲麻布飯倉の東京天文台の写真。
私たちのすぐ近所、ロシア大使館奥のアフガニスタン大使館手前の場所にかつては東京天文台があったのです。
1923年(大正12年)に周囲の光害や敷地が手狭になったことなどで今の三鷹キャンパスに移転しています。
▲後で紹介する緯度経度を計測する子午環(しごかん)が設置されていた場所が、日本の緯度経度の原点となっていて、それは今も変わりません。
かつて東京天文台の子午環が置かれていた場所には「日本経緯度原点」を示す金属球と標識が設置されています。
太陽塔望遠鏡(アインシュタイン塔)
大赤道儀室(天文歴史館)から少し奥まった場所にあるのが「太陽塔望遠鏡」。
▲1930年(昭和5年)に完成した高さ約20mのこの建物、実は建物自体が望遠鏡になっているのです。
アインシュタインの一般相対性理論が予言する「アインシュタイン効果(太陽の重力で太陽光スペクトルの波長が僅かに長くなる現象)」を検出することを目的とするもので、当時ドイツのポツダム市に建設されたアインシュタイン塔と同じ目的、同形式の施設なので「アインシュタイン塔」の愛称なのだそうです。
▲外壁のスクラッチタイルは焼きムラによる色の違いを効果的に使っていて、観測施設なのにデザインされている建物です。やはりドイツの本家アインシュタイン塔に対するライバル意識から凝った造りにしたのかもしれませんね。
▲エントランスのL字型のデザインがいいですね。
この建物も登録有形文化財(建造物)に指定されています。
旧図書庫
さらに三鷹キャンパスの奥へ進むとアインシュタイン塔と同じような外観の建物が見えてきます。
▲2000年まで図書庫として利用されてきた「旧 図書庫」。現在は倉庫として利用され外観しか見学ができません。
でもこれも1930年、アインシュタイン塔と同時期に建設された国の登録有形文化財(建造部)です。
レプソルド子午儀(しごぎ)
旧図書庫からさらに奥に進むと、小さな建物が見えてきます。
▲1925年(大正14年)完成の「レプソルド子午儀室」です。
これも国の登録有形文化財(建造物)です。
▲中に格納、保存されているのはドイツのレプソルド社が製作し、1881年に海軍省海軍観象台が800円で購入した子午儀(しごぎ)。時刻の決定や経度の測量のための観測機材です。
しかも国の重要文化財。重要文化財を格納している建物の登録有形文化財という非常に貴重なものです。
明治の時代にはこの装置を使って正午の時刻を測定し、それをもとに正午の号砲を撃っていたそうです。つまり ”半ドン” のドンはこの装置のおかげだったのですね。
ゴーチェ子午環
子午儀室のすぐ先には、さらに大きな建物「ゴーチェ子午環」が建っています。
▲子午儀も子午環も南北方向にしか向かないので、屋根も南北方向に屋根が開けられるようになっています。
そのためか、屋根の形状もかまぼこ型です。
▲建物の竣工は1925年(大正14年)。
この建物も登録有形文化財(建造物)に指定されています。
かまぼこ型の屋根のデザインのせいで、まるで海外のどこかを撮影した写真のようです。
▲内部に格納、保存されているのは」子午環」。子午儀と違って天体の位置(赤経と赤緯)を観測するための装置です。
1903年のフランス、ゴーチェ(Paul Gautier)製の装置で、購入時の金額は20,000円。
電波望遠鏡
建物は登録有形文化財、観測機材は重要文化財が目白押しですが、天文遺産も展示されています。
▲「天文機器資料館」がある広大な広場に設置、保存されている直径6mのミリ波電波望遠鏡。
1970年に完成した日本初、世界でも2番目というミリ波電波望遠鏡だそうです。
今は日本の「天文遺産」に認定され、ここで余生を過ごしています。

▲これは三鷹ではなく野辺山の45m電波望遠鏡。
人間の身長と比較するとその巨大さが分かります。
これもいつか天文遺産として残されることになるのでしょうか。
このように大正末期から昭和初期の特定用途のために設計、施工された貴重な建物の数々。それと建物施設と組み合わせることで最大の成果が得られる観測機器。
機能を実現するためのデザインが施されているので建築も観測機器も見ていて飽きないし、へぇーと納得したり驚くことばかりの国立天文台三鷹キャンパスです。
特に週末は説明員の方も出て現場からの貴重なお話を聞けるので、訪問するなら週末が特におすすめです。
写真撮影について
写真撮影、動画撮影全てOKです。
基本情報
国立天文台三鷹キャンパス
10:00~17:00 (入場は16:30まで) 写真、動画とも撮影可能 入場無料、予約不要(少人数の場合) 東京都三鷹市大沢2-21-1 MAP アクセス:JR武蔵境南口よりバス約7分、JR三鷹駅南口よりバス約17分。天文台前バス停下車すぐ |