NTT東日本が運営するメデイアアートを中心とした文化施設「ICC(NTTインターコミュニケーション・センター)」。東京オペラシティの4階というロケーションもあり、オペラシティアートギャラリーの展覧会と併せて訪問したい施設です。
2023年は前身となる雑誌「InterCommunication」の創刊から30年、オペラシティにICCが開館して25年となる年です。
それを記念しての展覧会「多重世界とリアリティのよりどころ」が開催されているので、東京オペラシティアートギャラリーの泉太郎の「Sit, Down. Sit Down Please, Sphinx.」に続けて訪問してみました。
▲この展覧会は2022年12月17日から2023年3月5日までの開催。
料金は大人が500円ですが、オペラシティアートギャラリーの半券があれば400円に割引されます。また高校生以下は無料です。
多重世界とリアリティのよりどころ
バーチャルと現実がシームレスに,もうひとつの現実としての拡張世界を持つようになったとき,このような多層世界の現実のあり方はどう変化するのか考えてみようというのがコンセプトの展覧会です。
が、そのようなコンセプトは抜きに子どもでも分かるような一発芸的作品が並んでいるので難しいことは気にしなくて大丈夫です。ただ一部刺激の強い作品があるので子ども連れの場合はそこだけ注意しましょう。
《顔をハメてもその様子を誰も見ることができない顔ハメパネル》AR
会場出入り口に置かれているのが『《顔をハメてもその様子を誰も見ることができない顔ハメパネル》AR』という藤原麻里菜の作品。
藤原麻里菜はこの展覧会に5作品を出品していて一番大きくフィーチャーされています。
▲観光地などでよく見かける顔ハメ看板をARで再現した作品。
▲ARといってもInstagramなので、インスタのアプリさえインストールされていれば楽しめます。右側の顔は目パネルがARです。
《QRコードマスク》
会場展示室に入って真っ先にあるのは、やはり藤原麻里菜の『《QRコードマスク》』という作品。
▲マスクに貼られたQRコードが作品です。
QRコードをスマホで読み込むと、マスクで隠れている顔の下半分が現れます。
▲こんな感じです。
マネキンの顔半分を補完しても面白くないので、自分の顔を補完したりして遊んでみましょう。
あ、もちろん展示室は不特定多数が出入りする密閉空間なのでマスクは着用で。
オンライン会議ツール
パンデミックで在宅勤務が増えたりしてオンラインでのミーティングが増え、それまで日本のビジネスシーンではマイナーな存在だったオンライン会議ツールが一躍脚光を浴びたりしています。
▲そんなオンライン会議ツールを使うさいに感じる気まずさを解消するツールが3作品。
これも藤原麻里菜の作品です。
▲寝起きのパジャマでもリラックした部屋着でも、これさえあればパリっとしたシャツを着たビジネスパーソンに見えるはず《オンラインミーティング用パーティションツール》。
他にも出たくないオンライン飲み会から脱出するためのツール、重苦しい会議の雰囲気を良い感じにできる猫ツールが出品されています。これは実際に見てのお楽しみ。今どきのオンライン会議ツールには背景画像やフィルターやエフェクトが揃っていますが、デジタル的に解決するのはなくアナログ的に解決しようという視点が面白いのでしょう。
《Blue》
視点が面白いのは柴田まおの『《Blue》』。
▲会場では青い彫刻が立ち並んでいて、ここを鑑賞者が思い思いに歩きまわります。
実はその様子は会場のカメラが捉えていて、YouTubeにリアルタイムで配信されています。
▲ところが、彫刻は青色なのでブルーバックと同じ。クロマキー合成すると消えてしまいますから、YouTubeで見るとなんとも不思議な空間が見えてきます。
このようにYouTubeに世界に配信されるので、それが気になる方はこの作品には近づかない方が良いです。
《骰子一擲 / a throw of the dice》
他には谷口暁彦の『《骰子一擲 / a throw of the dice》』。
サイコロが乗ったオブジェをコンピュータ空間内に実装し、サイコロのように投げられた様子を3Dでリアルタイムにシミュレーションする作品です。
▲これがオリジナルの現物。
これを3Dスキャンして、そのデータを元にコンピュータ内で再現します。
▲サイコロを投げるとあとは偶然の支配する世界。で、その偶然もひっくるめてのシミュレーションです。
こうしたシミュレーションはコンピュータの創成期からずっと開発が続けられていて、実際の現場ではこんなものではなくもっと複雑なシミュレーションをリアルタイムで行っています。
コンピュータの進歩でちょっとしたパソコンがあればこの程度の3Dシミュレーションもリアルタイムで行なえますというデモンストレーション的作品です。
《In game botanical》
ちょっと懐かしさを感じるたかはし遼平の『《In game botanical》』。
▲ゲーム内に登場する植物の進化を追った作品。
昔のドット絵からCGで描く植物のポリゴン数が少しづつ増えていく様子が分かります。ICC25周年の歩みを浮かび上がらせるというコンセプトのようです。
《How to Disappear》
会場の一番奥にはアーティスト集団トータル・リフューザルの『《How to Disappear》』が上映されています。
▲これは実際のシューティングゲーム「バトルフィールドV」の映像を素材にした作品です。
一部に暴力的・刺激的映像が使われているので鑑賞時には注意してください。
《バーチャル供養講》
やはり展示室の奥にはVR型作品があって、それが内田聖良の『《バーチャル供養講》』。空いていればすぐにVR体験ができます。
▲誰かの捨てられない思い出の品々が3Dスキャンされ、記憶が書かれたテキストと一緒に仮想の空間「バーチャル供養堂」に奉納されています。それをVRゴーグルを装着して鑑賞するという作品です。
これ以外にも作品が展示されていて全部で13作品。鑑賞に時間がかかるものバーチャル供養堂くらいしかありませんが、それでも全部じっくり体験していると1時間くらい過ぎてしまいます。
もし泉太郎と併せての訪問なら、まず泉太郎を見てから残りの時間を使ってICCというのが良いと思います。
ICCの展示作品
「多層世界とリアリティのよりどころ」展と同じフロアには、ICCのこれまでの展覧会などに出品された作品のいくつかが展示されています。
▲訪問時(1月中旬)に一番目立ったのが菅野創+加藤明洋+綿貫岳海の「かぞくっち」という作品。
リアルなロボットとコンピュータ内のデジタルな人工生命体かぞくっちによって構成される作品。ということですが、要するにジョン・コンウェイのライフゲームに物理的ななロボットや昨今のバズワードを散りばめてみた作品です。
▲「わたしたちのウェルビーイング」展の出品された「わたしたちのウェルビーイングカード」。
カードをひいてそこに書かれた項目が自分の生活のどんな時に当てはまるのか考えてみましょう。という体験作品です。
ブライアン・イーノのオブリック・ストラテジーズ(Oblique Strategies)のアイディアを子ども向けに展開した作品です。
最後に
ICC開館で25周年。iモード携帯登場前夜に開館し、それから今にいたるまでメデイアアートの現在地を知ることができる施設としての活動が続いています。
iPhoneやAndroidのスマホや様々なアプリが登場し、誰もがARやVRを気軽に体験するばかりかクリエイターにもなれる時代になった今、もういちどメデイアアートの大本山ICCでアーティストたちの活動に触れてみるのもよいですね。
基本情報
多重世界とリアリティのよりどころ
2022年12月17日[土] ─ 2023年3月5日[日] 11:00 ─ 18:00 月曜日休館 入場料:一般500円/大学生400円、高校生以下無料 NTTインターコミュニケーション・センター(略称:ICC) 新宿区西新宿3丁目20−2 MAP アクセス:京王新線 初台駅東口直結 |